かにとらいおん
ライオンは、水辺で腰を下ろしました。草原では、日の大半を寝そべって過ごしてはいても くつろぐことなどありません。いつも 生と死。静と動。そんな意識の中に 身を置いていなければならなかったのです。
誰もが『百獣の王』と崇めても、本当は、誰もが無関心、もしくは、隙あらば 獲物として狙っているのです。
ライオンは、華やかな存在の一方で 深い淋しさを持っていました。信頼できる仲間がいるのだろうか。自身の弱さをわかってくれる仲間がいるのだろうか。それを知られないように 草原では、いつも堂々と振舞っていました。そんな場所に 少し疲れを感じていたのかもしれません。
カニは、生まれた時には、たくさんの兄弟がいました。大切に 大切に 親蟹の腹に抱えられて、世に出る日を待ち焦がれていました。
腹から解き放たれた時、みな同じように 小さくとも立派な鋏を見せ合い、親蟹から旅立ち、自分の目指す場所へと向かいました。水に過ごすもの。陸に上がるもの。どちらとも決めかねて水辺をいつも迷っているもの。
一緒に育った兄弟と離れ離れになっても、その記憶を大切に抱きしめ暮していました。
でも、ある日、ヌーの大群が移動しているところに ワニが現れたのです。
ワニも、結構な数でした。きっと 腹を空かせていたのでしょう。ヌーの群れにはまだ初めての旅をするような幼獣も混ざっていました。恰好の獲物です。
水辺は、右往左往するもので混乱が起き、なかには、仲間の角で傷つくものもいました。
ヌーだちも、自らを守りながら、幼獣の保護もしなくてはなりません。ワニは、そんな中に硬い表皮で覆った巨漢と鋭い歯をむけました。静かな水辺は、大きく波立ち、荒れ、血に染まりました。何とか逃げ果せたものの中にも、深い傷をおったものも少なくありません。