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 永井は小さい頃からつるんでいる気心の知れた親友だ。
 高校で俺は野球部、永井は女子サッカー部に所属していて、部活が終われば一緒に歩いて帰る。帰る時だけでなく、学校でもよくふざけ合っている。入学当初は付き合ってるんじゃないかと周りから散々冷やかされたものだが、お互いに「コイツだけは無いわー」とけなし合っていた。高校生になって二人だけでどこかに遊びに行くとか、どちらかの家に遊びに行くとかしなくなっていたのだから。恋愛感情はない。そう判断して間違いはないだろう。
 これが永井遥に関する①だ。
 原間さんに告白されたその瞬間も、まさに気を置かずにふざけ合っていた最中だった。
 俺達二人は、原間さんがえっちらおっちら戻って、昇降口に入って見えなくなるまでポカーンとしていた。そして正気に戻ったのは、多分、二人同時だった。そして俺は不覚にもデリカシーの無いことを言ってしまった。
「どうしよう……」と。
 男として、いいや漢としてなんとも情けないことを口走ったものだ。永井は「へぇっ!?」と言って顔を真っ赤にした後、そっぽを向きながらボソボソと呟いた。
「い、いいいい、いいんじゃないの……? は、原間さんって、おしとやかだし、深窓の令嬢って感じだし、む、むむ、胸とかも大きいし……」
「へっ!? む、むむむむ、むっ!?」
「ムッツリスケベ!」
「す、スケベじゃねぇし!」
「え、興味、無いの……?」
「き、ききき!?」
「なんだ、あるんじゃない」
「あ、あああ、あるとかー、ないとかー、そーゆーのじゃ……?」
 俺が慌てている一方で、永井は黙ってうつむいてしまった。俺はその横顔を、普段は大口を開けて笑っているのに今は唇を硬く結んでいるその横顔を、俺はじっと見つめることになった。
 今思えば、永井は必死に考えていたのだ。決断するかしないか、大きな選択を迫られていたのだ。
「あのさ、えいちゃん」
 何者も恐れない勝気な眼が、力無く泳いで俺に合う。今思えば、永井の眼はこの時、既にうるんでいたのかも知れない。俺は急変した友人の態度に困惑しながら、言葉の続きを待っていた。中学校以来の呼び方をされているのにも全く気づいていていなかった。
 ただ、何を言われるのかということは、予想できていたはずだ。
「実はね、その……」
 そう言って、唇をかみしめて眼を反らして、また黙ってしまった。原間さんとは逆のことが起こった。永井はいつもすぐ隣にいるのが当たり前で、どこまでも俺と同じ場所にいて、手を伸ばせばそこにいる。
 そんな永井が知らない顔ばかりを見せる。
 現実味が無かった。周りに視線を走らせて、下校途中の生徒達が足を止めていることに気がついた。本当に男らしくないことだが、俺は永井を連れてその場を離れたくてしょうがなかった。
 俺は永井の手をつかもうとした。でも永井に思い切り振り払われてしまった。
 永井は、自分自身で本当に驚いているみたいだった。
「ご、ごめん……そんなつもりじゃなくて!」
 その時の永井の表情は、頭に焼きついて離れない。
 焼きそばパンは大口を開けて食べるし、女子にあるまじき声で笑うし、クシャミはおっさんくさいし、俺と同じで部活のことしか頭にないスポーツバカ。そんな風にしか思っていなかった永井が、目に涙をためて、今度は無理に笑顔を作ろうとしている。泣き顔すら、小学生の時に俺んちで花瓶を割った時くらいしか見たことないのに。
 はたして、あんな悲しそうに笑っている永井は、本当に永井だったのだろうか。
 俺が、本当の永井を知らなかっただけなのだろうか。
 結局、俺と永井は校庭の注目をそのままにしていつもと同じ道を黙って帰った。バラバラに帰っているのと同じだったが。
 そして別れ際に、永井の家の前で、俺は言われたのだ。
 ひどく落ち着いた声だった。
「あたしもね、えいちゃんが好きなの」
 俺は何も言えなかった。目を合わせることもできなかった。
「たぶんね、小学校の時から、ずっと好き」
 怖くなった。何が怖かったのか、今でもまだ分からない。
「えっ……あ……」
「気づいたのは最近だから、そんな気にしないで」
 俺は何を気にしているように見えたのだろう。
 きっと、たぶん、おそらく、そんな俺が心底情けなさそうに見えたのだろう。永井は俺の背中を思い切り叩いた。
「また明日!」
 叩かれて、俺はやっと永井を見た。
 無理をしている永井だった。違う。俺がさせている。だったら男の俺も空元気でもなんでも出さなくちゃ男がすたるのだ。
「お、おう!」
 俺は、永井のことを全然知らなかった。これが①だ。知っていると思い込んでいた。なら俺が知っていると思っていた永井はどういう存在になるんだろうか。本当の永井ではないのか。俺の知らない永井が本当の永井だろうか。
 悩みながら俺は、家まで帰ってすぐに机の上に紙を広げ今に至っている。
 知りたい。どっちが本当の永井なのか分からないけど、俺はもっと永井を知りたい、そう思っている。
 これが永井に対する俺の②だ。

 書き切った原間さんの①と②と、永井の①と②を見比べる。長い長い思考の幻影が頭の中を横切っていくのが分かる。
 ベストは尽くした。後は体と感性に任せろ。監督が大会で口を酸っぱくして言う言葉だ。俺が告白を受ける人は……。
 俺は、心を決めた。
作品名:好きです 作家名:小豆龍