空に消えた隊長
「あいつらは本当の男だ。礼儀をわきまえた本当の勇者だ。だからヒヨコの貴様に喧嘩を売らなかったのだ」
私は開いた口が塞がらなかった。こんな戦場で騎士道を重んじて戦争をしている者がいるとは思えなかった。
隊長は天井を見上げて言った。
「俺には敵の気持ちが良くわかる。あいつらは必ずまた戻ってくる。その時が決着をつける時だ。今まで俺は友軍を守るために卑怯とも取れる戦いをしてきた。だが、あいつらとは正々堂々と戦いたい」
そんな隊長の目が熱く燃えていた。隊長は拳を強く握り締めた。
私はその夜、寝苦しくてなかなか寝付けなかった。そして隊長の言葉を思い出していた。
(隊長は一体、何のために戦っているんだろう?)
そんな疑問が私の胸に渦巻いた。隊長の気持ちを理解するには、まだ私は若すぎたのかもしれない。
翌朝、昨日空戦を交えたスピットファイアの編隊が再び我々の補給基地の頭上に現れた。
スピットファイアは我々が飛ぶのを待っているかのように旋回を繰り返した。決して基地には攻撃をしてこなかった。
「よーし、迎撃だ。皆、上がるぞ」
隊長が叫んだ。
「いいか。隊長機は俺が相手をする。他の者は手出しをするな。それから笹山、貴様はなるべく離れて我々の戦いを目に焼き付けておけ」
私は素直に隊長の指示に従うことにした。
エンジンが一斉に爆音を立て、エナーシャが回される。プロペラが旋回を始めた。
我々の隼は滑走路を滑り、大空へ舞い上がった。
私は一番最後尾を少し離れて編隊の後を追った。
敵と味方が入り乱れて撃ち合いを始める。上下に円を描く機体もあれば、左右に旋回する機体もある。
私はお互いの隊長機に目をやった。昨日と同じように、双方正面からの勝負を挑んでいる。
3度目にすれ違った時だった。敵の隊長機が火を吹いた。それは大きな爆発となって機体を空中分解させた。そして残骸が密林に墜ちていく。
パラシュートは見えなかった。おそらく敵の隊長は脱出する暇もなく爆発に巻き込まれたか、隊長の隼の機関砲の餌食になって既に死亡していたのだろう。
昨日の隊長の話を聞いていただけに、私は複雑な思いで墜ちていく火だるまの残骸を見つめていた。
他のスピットファイアは隊長機が撃墜されたからだろうか、空戦をやめ、引き返して行った。味方の数機がそれを追おうとした時、隊長の無線が入った。