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空に消えた隊長

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 その時、私たちは隼に乗って我々の補給基地上空に現れたスピットファイアの編隊を迎撃していた。
 当時、17歳だった私は陸軍航空隊の少年兵として最前線へ駆り出されていた。腕は未熟だった。同期の中でも一番覚えが悪かっただろう。普通に操縦するのがやっとのことで、とても敵の弾をかわしたり、攻撃したりなど出来たものではなかった。
 そんな私でも飛ばないわけにはいかなかった。言い訳など通用しない。それが戦争だった。
 そんな私に加藤隊長は、
「笹山、お前は飛ぶだけでいい。敵が来たら逃げろ。決して弾を交えるな」
 と言った。
 隊長の隼が敵の隊長機の正面に回り込んだのが見えた。そしてお互いすれ違いざまに撃ち合うが、なかなか命中しない。
 隊長は尚も敵の隊長機の正面に回り込もうとする。隊長は決して後ろからは撃たなかった。敵の隊長機も隊長を後ろから撃つことはなかった。そして、またすれ違いながら撃ち合う。
 隊長たち以外も敵味方入り乱れての大混戦となっていた。
 隊長の隼の主翼に穴が開いた。幸い火は吹いていない。敵の隊長機も胴体に風穴が開いている。
 その時、私の照準器の中に一機のスピットファイアが入った。私は夢中で機関砲の発射ボタンを押した。しかし、スピットファイアは私の撃った弾をヒラリとかわし、私の背後に回った。
「しまった! やられる!」
 私は一瞬、心臓が止まる思いがした。しかし、なぜかスピットファイアは攻撃をしてこなかった。
 幸い我々の編隊は死者を出すことなく、補給基地に帰還した。隊長の隼も火こそ吹いたものの無事だった。

 私は帰還してすぐ、加藤隊長に呼び付けられた。
「笹山二等兵、入ります」
「この大馬鹿者!」
 ドアをノックし、部屋に入った私を隊長はいきなり怒鳴りつけた。
「どうして撃ったんだ。あれほど撃つなと言っただろう!」
「は、照準器の中に敵機が入りましたもので……」
「確かに我々の隼は早さの点では敵のスピットファイアより勝る。しかし、それは腕があってこそだ。お前のような未熟者にはまだ早い」
「……」
 私には返す言葉がなかった。
「今日の敵の編隊は手ごわい奴らだった。隊長の指揮が見事にとれている。だから貴様を撃たなかったのだ」
 私には隊長の言葉の意味が理解出来なかった。だから素直に聞き返した。
「何故でありますか?」
作品名:空に消えた隊長 作家名:栗原 峰幸