毎日が記念日だって思うんだぼくのとなりにきみがいるなら
2013年2月 もし今夜雨から雪に変わったらそれを理由に電話かけよう
成人の日に大雪が降りました。それはぼくの成人の日と同じでした。15年前の成人の日、ぼくは大雪の中徒歩で市民会館に向かい、到着した時にはすでに式は終わっていて、記念撮影などをしている同級生らにやっと会えたものでした。
そんなぼくの成人の日と同じように大雪が降った日、ぼくは仕事をしていました。どこもかしこも大渋滞。雪に不慣れな首都圏はパニックになりました。まいさんは北海道出身でぼくより年下です。女性の歳の話はくわしくするものじゃない。とにかくその日は大変な一日でした。まいさんは「雪が好きだ」と言いました。
『大雪の成人式の思い出をいつかきみにも話したいんだ』
『雪道のくるまの轍どこまでも離れないけど交わらぬまま』
『きみの住む街にも雪が降っている今のこころにおもい雪かき』
『「ふるさとを思い出すから雪が好き」ぼくの知らないきみの思い出』
『雑音を雪がつつんでくれるから静かにきみを想ったりする』
子供の頃、いや二十歳すぎまで、ぼくも雪が好きでした。いつの間にか雪がただ厄介なものに思うようになっていました。大雪が降って数日後、首都圏は再び雪になるおそれがあると、天気予報士が言いました。ぼくは少しだけ嬉しかったのです。
まいさんが「ふるさとを思い出すから雪が好き」と言っていたから。
でも、長いこと北海道に帰っていないらしく、今の望みは帰省することだとも言っていました。友人が体調を崩しているらしく心配だそうです。そういうまいさんも、昨年体調を崩して3ヶ月も仕事を休んだそうです。今もまいさんは病院に通っています。ぼくらくらいの歳でもつい「あの頃はよかった」とか言っちゃいがちなんだけど、まいさんがそんな風に言い出すのが怖いなと思っています。
『もし今夜雨から雪に変わったらそれを理由に電話かけよう』
『「雪が好き」少年時代のぼくだって「好き」って言えたなのにどうして』
『「あの頃はよかった」なんて言わないで今のふたりが色褪せるから』
『寒いから「さむいね」って言ったんじゃなくてほんとは手を繋ぎたいから』
『甘いから美味しいわけじゃないんだなきみからもらったビターな想い』
結局、雪の予報は外れて、雨さえ降りませんでした。「さむいね」とLINEで送りました。まいさんは「さむいね」とLINEで返してきました。ぼくは俵万智さんの短歌を思い出しました。あの頃と違って、今は簡単に繋がっていられます。メールやLINEで。でも、それは電波だけの繋がりで、温度が伝わらないのです。ぼくはせっかくの連休をとても低い温度で過ごしました。
淋しかったせいか、過去のことばかり振り返っていました。ぼくにも恋人がいて幸せな時期があって、ありきたりな別れをしました。懐かしい思い出です。今のぼくはそういう思い出で出来上がっているのだろう。まいさんの思い出を知りたいと思いました。
2013年2月某日
作品名:毎日が記念日だって思うんだぼくのとなりにきみがいるなら 作家名:桃井みりお