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猫の妖精と魔法技術者

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 なんせ、中央地区と言えば文明崩壊期以前は電子部品を多く扱ったジャンク街が存在しており、その手のギフトが多く出土されるという。今から凄く楽しみなのだ。
「テンション、高……」
 そんなことをティルは呟いた。お前のテンションは低すぎじゃないか?
「良いなぁ、先輩。僕も行きたかった……」
「まあ、そういうな。お土産を積むには大分空きがあるし、このガレージなら好きに使っていいからさ」
 少々不服そうな顔をしていたが、カイルは引き下がる。どうやら、俺が居ぬ間に機械を弄る、という条件が魅力的だったようだ。俺は教えることは教えるものの、あまり機械を弄らせはしないからな。カイルには大体の実技演習をやらせているから実務に支障はないだろうが、好きな機械を好き勝手に弄らせることはまだあまりさせていない。
「あのでかいのも弄っていいの?」
「いいさ。あんまり滅茶苦茶にするのは困りもんだけど、お前なら大丈夫だろ?」
 そう言って、俺はカイルの頭を撫でる。可愛い弟子だ。
「そっか、それじゃあ気を付けて行ってきてください、先輩」
 ジルの笑顔に、俺は笑顔で返すのだった。
 格納庫を出て行くカイルを見届け、俺はホバートラックに物資の積載を開始する。
「……ホモ?」
「人聞きの悪いことを言うんじゃない」
 ティルの不穏な呟きに、半ば条件反射気味に言い返す。
「男が男の頭を撫でるのって、なんか、キモチワルイ……」
「うぐっ!」
 声が小さくて、一文節毎に句読点が入るようなしゃべり方だが、言うことはかなりキツイ。その小さな口には戸が立て易そうなのに、こいつは立てようとしない。
「お前、少しは言葉を選ぼうとしろよ」
「着飾るのは、嫌い……」
「言葉を着飾るのぐらい良いだろ!」
「色々と、めんどう、だから、いや……」
 訂正、こいつは口下手でかつ口癖が悪い。
「それはそうと……あなた、列島に行くって……」
「ん、それがどうしたんだ?」
「私も、連れて行って、欲しい……」
 と、ティルはやっぱり小さな声で言った。

 第十一番放棄地区には『二本の剣』という伝説が残っている。十一番の旧称は二本の剣から来ているという話があるが、どうもこれは胡散臭い。
 その昔、十一番の土地に巣食っていた魔物がいたという。その魔物を打ち破ったのが『天を砕く剣』と呼ばれる二振りの剣で、その一撃は天を裂き、多くの魔物を光の内に飲み込むという。
 語り口から崩壊の日以後の伝説であると思われるが、年代設定の良く分からなくどうにも要領の得ない話だ。彼女は、その二本の剣にまつわるモノを探して旅をしているのだという。
「だから、十一番に、行きたい……」
「伝説を追って、旅かぁ……」
 伝説、神話の類は確かな資料を得ることが難しい。なんせ文明崩壊期以前の記録は大体が消失していたり極秘扱いだったりで、目にすることは難しい。西洋連合のルイン・ライブラリーや各遺跡街、遺跡都市に現存する図書館であるならその類の資料を得ることが可能だ。しかし、この中央大陸や西南大陸では文献類を保存した遺跡自体が少なく、確かな資料を得ることは難しい。
 だが、伝説の舞台となった土地ならば話は別だ。伝説の舞台ならば、数多くの文献が現存することは多々あるし、十一番の学者ならばその話には詳しいだろう。
「しかしまあ、なんで二本の剣なんだ? あんなあやふやな伝説、調べるのも一苦労だろ」
「それは……」
 なんせ、時代設定すらあやふやだ。大体の文献にはコラム程度の長さしかその記述がなく、共通しているのは二つという数字と、天を裂くとか光といった現象のみ。ある時は英雄の振るった二振りの剣であったり、またある時は舞い降りた二柱の天使だったり、果ては隕石という話すらある。今のところ、隕石説が学会では有力視されているという。
「……」
「まあ、十一番の大体は回るつもりだからいいけどさ」
 だが、断る理由はない。それに、彼女ほどの剣の腕があればこの先凄く心強い。
「そう、ありがと……」
 む……お礼も飾らないか。この辺は好感が持てる。
「それじゃあ、握手」
 そう言って、俺は右手を差し出す。ティルは不思議そうな眼でそれを見つめる。そしてその意味を理解したのか、しばらくして自分の右手をゆっくりと差し出す。
 しっかりと繋がれる右手。その手は小さくて柔らかくて、とても剣を握っていた指とは思えなかった。

作品名:猫の妖精と魔法技術者 作家名:最中の中