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猫の妖精と魔法技術者

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2/「俺も、少し喋り過ぎたな……」




 昨夜のバカ騒ぎもどこの空。うちの野郎どもの野太い声がウィークエンド号船内に響き渡る。商人というモノは酒に強くなくてはならないらしい。我が竜骨商会だけの特例かもしれないけれど。
 ワーム料理は美味かった。その所為か、思ったよりも素材は残りが少なかった。それでも冷凍庫を埋め尽くすワーム肉を目の前にすると、それだけで腹が満たされる思いだ。
 昨日の旅人はそのままこの船に同乗しているようだ。特に単独踏破には興味がなかったようだ。
 俺はというと、残りの日数の間にやっておかなければならない仕事の片付けに入っていた。
 竜骨商会には機械を扱える技師が少ない。半ば専属の技術者としてここで働いているのだ。その十年近くのキャリアの結果が、発掘品管理部長。歳不相応だとは思うが、この商団は実力主義なのだ。こんな若造でも使えれば相応のポストに、使えなければいつまで経っても使いっパシリなのだ。
 他にも技術者は居るのだが、ゴーレムの、特にテッポウマルレベルの精密機械の整備を行えるほどの腕を持つ者は今のところいない。今一番に見込みがあるのは俺より四つ程年下で名前をカイルという少年だ。勉強熱心で今もテッポウマルの整備を横から見ている。
 まだあどけない少年で、生まれつき目が悪いのか眼鏡を手放せないのだとか。
「で、そこの女の子。昨日の旅人さんですよね?」
 カイルはその旅人さんをこっそり指差しながら言う。
「あー、えっと……まあそうだ」
 朝から俺の後ろを付いて回るのは、昨日から話題を独占している例の旅人だった。
「……」
「……物凄くやりづれぇ」
 そりゃもう、監視するかのようにこちらを睨む感じとか、とてもやり辛い。凄くやり辛い。滅茶苦茶やり辛い。
「……」
「……」
「……」
 沈黙が沈黙を呼ぶこの空気。なんだよこの空気。こんなレベルの空気に勝てる猛者がいたら教えてほしい。どうか俺にこの空気に打ち勝つ方法を教えてほしい!
「あー、えっと、先輩。これ、これの使い方教えてください」
 重い空気を誤魔化すようなカイルの質問。非常にへたくそな振りだが、それでもありがたい。
「あ、これね。こいつは動力系統の制御に使う電子回路で、俺も今勉強中なんだ。これは動体制御で、こいつは精密射撃用の火器制御システム。今テッポウマルに載せてるのは並列処理に長けた乱戦用だ。良く仕組みは分からないが、色々試してみた結果、そういう傾向の違いがあるらしい」
 と、俺はガレージの端に積み上げられていた回路の説明をする。その間も、俺の行動をじぃっと見つめる旅人ことティル。そろそろウザくなってきた。
「おおぃ、ヴァイル。そろそろ街に入るから、荷下ろし用のゴーレムの操縦、頼む!」
 丁度いいタイミングでとっつぁんがガレージに顔を覗かせる。元はバリッバリの武僧で、若い頃は相当腕を鳴らしたらしい。その所為か、武器類ギフトに関しては俺より多識だ。その筋骨隆々のボディからは、衰えなど感じさせない迫力がある。
「おや、旅人さんもここにいたのか。そろそろ街に入るから、あんたも荷作りしとけよ」
 こくり、と頭を下ろす。無愛想というよりは、口下手なのか、こいつは。
 すぐに街は見えてきた。遺跡街と呼ばれるコロニーだ。

 この星には多くの遺跡が残されている。特に、遺跡を中心に栄えている街を遺跡街と呼んでいる。地上、地下問わず、未だに遺跡が居住区として生きているコロニーが該当する。頭に『ルイン』と付け、その後に発見番号や発見者や権利者の名を付けたり、元の地名を付けるのが慣例となっている。
 これらの遺跡街では既に大体のギフトは掘り尽くされている上に本来の機能が失われているものが大概であるが、その居住環境の良さから掘り尽くされた後も人は絶えない。また、これより東の諸島には更に多くの遺跡街や遺跡そのものが残っているという。俺はこのルイン・二〇一号にて下船し、とっつぁんたちとは別行動を取る手筈となっている。
「とっつぁんたちは、これから北上するんだっけ?」
「ああ。今度会うのは北の半島だな。第十一番放棄地区は交通の便がいいから、すぐに縦断できるだろう」
 第十一番放棄地区と呼ばれる島々は、この大陸のすぐ隣にある。これより俺たちは南半島から南大島に渡り、南大島を回った後に中の小島に渡りそこから本島、そして北の大島へと縦断する旅路となっている。
 第十一番放棄地区という名前であるが、文明崩壊期の戦乱にて旧時代の軍隊が魔物相手に戦闘を行った際に、十一番目に放棄した地区である、というのが由来なのだとか。本来の地名は長い時の間に摩耗し、知る人ぞ知る名前となってしまった。
 今でも多くの生きた遺跡や遺跡街が残っており、特に第十一番放棄地区を縦断するハイウェイやレールウェイと呼ばれる形態の遺跡は未だに一部が健在という非常に貴重な列島である。
 科学技術関連のギフトが多く遺されており、未だにその解読が行える科学者・技術者が多く居住する列島だ。このような科学技術に対する研究が進んだ土地は、十一番以外には後は西洋連合諸国の遺跡街ぐらいだろう。
 神話の時代、陸路でさえ列島の南の端から北の端まで一日も掛らなかったという話だが、真偽のほどは良く分からない。少なくとも、現在なら南の大島を縦断にするのにも一日は掛かるだろう。
「とりあえず、半年後だっけ。その間の船の整備、カイルに任せて大丈夫かな?」
「まあ、大丈夫だろ。それにこの船に乗っている連絡装置なら、お前さんのゴーレムにだってすぐに繋がるだろう? なら、大丈夫さ」
 それの仕組み、未だに良く分からないところがあるから壊れるのが一番怖いのだけどな。まあカイルなら何とかするだろう。この為に、連絡装置関係は真っ先に教え込んだのだから。
 俺はとっつぁんに用紙の類を押し付ける。とっつぁんはそれを受け取ると、積荷を下ろす為にどたばたと格納庫へと向かった。
「さて、俺も出る準備をしないとな」
 第十一番放棄地区縦断にはウィークエンド号に積載されていたホバートラックを利用する。整備の終了したテッポウマルと工具の類と食料、あとは電子部品の類やテッポウマルの換装パーツなどを多く積んである。取り外されている電気の大砲も積んだ。他にも格納庫には多くのゴーレムが残されているが、こいつらは色々と手に負えないので置いておくことにする。特に、一番大型のゴーレムに付いては知らないことを知れば更に知らないことが増えるという始末で手に負えないのだ。
 今回の旅路は留学に近い。各地方の技術者に挨拶をして回り、様々な技術を学ぶことを目的としている。ほとんどアポなしの突撃受講に近いが、テッポウマルやその他の積み荷、あとこのホバートラックがあればまあ何とかなるだろう。研究熱心な学者なら、食い付くに然るべきギフトであるからだ。
「あなた、十一番に、行くの?」
 特に答えない理由もないし、ティルの問いに俺は答える。
「ん、そうだよ。列島の技術者に挨拶をして回って、色々なことを教えてもらうんだ! 特に、中央地区周辺の遺跡街には多くの技術者がいるって話だからね。凄く楽しみなんだ!」
作品名:猫の妖精と魔法技術者 作家名:最中の中