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猫の妖精と魔法技術者

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3/「――ええ、必ず良い結果を持ち帰って見せますわ」




 トラックを走らせること二日間、ようやくコロニーが見えてきた。この町は周辺のルインから避難してきた住民らの子孫が開拓したという。
 十一番にも魔物に占拠されている第一級都市遺跡が未だ数多くある。そのことに関係があるのか、十一番では武器の類のギフトがあまり発掘されないという。
「ここから貨物客船にトラックごと載せてもらって十一番を目指すんだが……おい、起きろ」
「起きてる、起きてる……」
「そう言うセリフを吐く奴は大体寝てんだ、起きろ!」
 ティルの両肩を掴み、前後左右に振る。がっくんがっくん頭を揺らしながらも、「起きてる、起きてる……」と呟いている。
「お前、昨夜しっかり寝てたくせに、まだ眠いのかよ」
「起きてる、起きてる……」
 だから起きてないって、それ。
 今日は良い陽気だ。風もほど良く冷たく、心地よい。うたたねしたくなるのも仕方ない。
 しかし、俺まで昼寝してしまうと、この街に滞在する期間が延びてしまう。それはあまりよくないので、さっさと貨物船に載せてもらえるように交渉に行く。
 まあ、その漁港で色々と交渉に手間取った訳ではあるが。
「――あの積み荷は売るのは駄目だ。ぼり過ぎだろ、それじゃあ。客室と食事はいらない。積荷船の一区画貸してくれればいい。相場はこれくらいだろ? これじゃあ相場の三倍じゃないか。ああ、分かった。それじゃあ相場の四割増し出す。で、これはお前の懐に収めろ。悪者は俺たちでいい。これでいいだろ? よし、交渉完了だ」
 多少金がかかったが、これで二日後に出航する船に乗ることができるようになった。客室はないが、ホバートラックごと積載するのでなくても構わない。食料はこの漁港で仕入れるつもりだ。高い金を出して食事を買う必要なんてない。
「まあ、三倍の値段を出さずに済んだだけ、マシとするか」
 そうぼやきながら、俺はトラックの運転席へと乗り込む。助手席では、ティルがくるりと丸まって眠っていた。遂に本気寝を始めていた。
 俺はトラックの荷台から毛布を取り出すと、ティルに掛ける。そろそろこの地域では冬を迎えつつある。いくら暖かな陽気だろうと、このままでは身体を冷やす。
「まあ、予定どおりだな。このまま余計なことに巻き込まれなければいいのだけど……」
 こういう時にこんなセリフを吐くと、大体はそのセリフの危惧するところが起こるものだ。今回も、その例に漏れなかった。

 さて、船に乗って半日ほど経った頃だろうか。旧時代の船は、南の半島から南大島までの距離を二時間で進んだという。これもまた旧時代の船であるものの、様々な機器に異常をきたしている為に低速運行なのだとか。機械弄りは最早趣味の域だが、態々運行中の船の整備など、誰が好んでやるものか。そもそも、そんな時間はないのだ。
 六枚に分けられた地図をトラックの中で広げる。それぞれ、北の大島、本島北部、本島中央部、本島南部、中島、そして南の大島と並んでいる。今夜には南の大島に上陸し、半月を掛け南の大島の主要都市を巡る。中島から本島西部に渡り、本島中央部まで横断して行き、北本島へと北上して行く。南の大島はハイウェイと呼ばれる遺跡を利用して一気に南下し、南の大島全体を巡るつもりだ。
 あくまで十一番へ渡る目的は中央遺跡群であり、南の大島自体にはあまりめぼしい遺跡はないが、これより南海の諸島は軍用ギフトのメッカである。今でも多くの軍用ギフトが発掘される為、トレジャーハンターはここを目指すことが多い。今回は諸島に渡るほどの余裕はないが、西の方でも軍用ギフトが発見されている為、そちらには向かおうと思っている。
 今後の旅行計画を立てながら、持ちこんだトランプでティルと遊んでいた。ティルが十七連敗という快挙を成し遂げた頃だろうか、大きく船が揺れた。それと共に、船内が妙に騒がしくなる。
 ティルは腰に手を当てる。その辺りにはあの綺麗な刃の片手剣が下げられている。車内の明かりを落とし、覗き窓から外の様子を窺う。
「……海賊か? 奴ら、銃型ギフトを持ってる。型はサブマシンガン、全員が同じ装備だ」
 どうやらこちらにはまだ気付いていないようだ。皆が皆、銃型のギフトを持っている。武器型のギフトはやたら手に入るし、再現がそう難しくないのだ。流石に電子部品を積み込んだハイテク武装の量産は非常に難しいが、ああいった携帯機銃などはそれほどではない。大方武器商人を襲って、取引商品をまるまる強奪したのか、それともこの船に載せてあったものだろうか。いずれにせよ、非常にまずい状況に陥っている。
「ここを探られるのも時間の問題か」
「どうする。いっそ、逃げる……?」
 ホバークラフト、というのは何気に便利な乗り物なのだ。砂上はおろか水上すら走ることができる乗り物だ。特に、このホバートラックは浮遊船と同様の技術が使われているようで他のホバークラフトとは一線を画する。このまま船を見捨てて水上を走り続ければ、いずれは陸地に辿り着けよう。
「……いや、駄目だ。この状況で航海士を失うのは不味い。逃げるにしたって、指針は必要だし……」
 上手く逃げ出せたとしても、行き先が分からないのは不味すぎる。このまま進路を間違えて遠洋まで出てしまっては、生還も絶望的だ。
「それじゃあ、海賊を追い払うしか、ない……」
 まあ、その通りだ。それをするにしても、流石にティル一人では難しいだろう。俺が参戦するにしても、使い物になる武器はハンドガンが一丁。この狭い中で、しかも人間相手にテッポウマルを使う訳にもいかないし、足手まといにしかならない。
「お前が海賊なら、まずどこを抑える?」
「襲う船に斥候を潜り込ませて、船内の略地図を作らせる。武器庫の場所を、本隊に連絡。機動性を重視した分隊を、三から四個分隊を作成し、襲撃の直後に武器庫を制圧。武器庫、操舵室を抑えたら本隊を突入させる……」
 お前、妙に手慣れてないか?
「そんなに、組織化された作戦を、立てているとは、思えないけど。それでも武器庫と操舵室は、真っ先に抑えられていると、思う……」
 さて、さて。この状況、どう潜り抜けようか。状況が全く分からないのが不味い。使える武装もハンドガンとゴーグルだけ。テッポウマルはこんな閉所ではただの的だ。
 こりゃ、しばらく動けないな。腹も減ったし、携帯食料を積めた木箱を覗く。
「ホバートラックか。中々珍しいモノがあるな」
「やべっ」
 俺はティルを抱えると、テッポウマルのハッチを開き、中に潜り込んだ。
「狭い……」
「我慢しろ。そして静かにしろ」
 テッポウマルは一人乗りだ。パワードスーツを発展させて開発された陸戦型機動兵器であり、二人乗りをその設計理念には存在しない。
 しかし、そこはティルの身体の小ささが幸いした。ティルの年齢を俺は知らないが、見かけは年端の行かない子供だ。テッポウマルの中に滑り込むには十分だった。
「一応、そのホバートラックの中も調べておけよ」
「はい、了解しました」
 ゴーレムのアイカメラを起動する。ゴーグルに映し出された映像には、武装した男の姿が映っていた。
「すげぇ、これゴーレムだ。流石十一番行きの船だ、こんなもんまで積んでるとは……」
作品名:猫の妖精と魔法技術者 作家名:最中の中