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猫の妖精と魔法技術者

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 日は既に落ち、焚火の明かりがその草原では光源だった。あとは、頼りない天上の月明かりと星光ぐらいだ。
 そろそろ食後の片づけを始めなければならないか。この辺は遺跡も少なく、強力な魔物の姿も見ないが、それでも焚火の明かりはそれらを惹き付ける要因になる。
 火を消すと辺り一掃が更に暗くなる。ペンライトの灯りを頼りに燃えカスを始末し、後片付けが済むとペンライトもスイッチを切る。
 そのまま座っていた地面に寝転がる。すると、トラック後部荷台の屋根に座っているティルの姿が(足だけ)目に入った。
「なぁ、そこで何やってんの?」
 そう声を掛けたのは、きっと会話がしたかったからだろう。
 ひょっこりと顔を覗かせるティル。その黄金の瞳は闇夜でも綺麗に輝いて見えた。
「特に、何も」
 まあ、そうだよなぁ。俺だって今そこで何をしているんだ、と訊かれたらそう答える。
「ねぇ……」
「ん、なんだ?」
 ティルは屋根から降りると、俺の傍らに腰かける。
「自分自身が一体何なのか、どういう人間で何ができるのか、とか悩んだり、考えたこと、ない?」
 そんな、妙に応え辛い質問をティルは口にした。
「え、あ、うーん……」
 そう、応え辛い。なんせ、在りし日に毎日のように考え、悩んでいたことだからだ。
 俺は本当の親が既にいない。ものごころが付く頃には戦争に巻き込まれて死んだ。俺のように戦争で親を亡くした子供は多くいる。俺が幸運だったことは、すぐに拾ってくれた者がいたことだ。
 大概は少年兵や奴隷として連れて行かれたり、何処かで野たれ死んだりするモノだ。だが俺は、あのガルディックという男に拾われて暮らしてきた。だから、俺は自分の出生に付いて何一つ知らない。一体どんな環境で生まれ、どんな親を持っていたのか。それを知る術は俺にはもうない。
 全く持って贅沢な悩みだとは思う。思うのだが、どうしても自分自身の出生が気になって仕方なかった。
「昔は、そうだったっけ。今はどうかと訊かれると、微妙としか答えらんないな……」
 嘘ではない。どうでも良くなった、と言うのが正確だ。
「この世界には、分かっていることよりも分からないことの方が多い。だからせめて、自分のことだけでも分かろうと思ったことがある。いや、思っている。だけど、私には自分が何なのかを知る術はなかった。だから、私は自身が一体どんな存在なのかを、いろんな『セカイ』の中で知ろうと思った」
 彼女は星を掴もうと空に手を伸ばした。まるで今言ったことが不可能だと言わんばかりに。
 今日の彼女はいつもより多弁だ。今夜の彼女だけ、中身がそっくりすり替わったかのようで、だけど最も彼女が人間らしくも感じられた。
 まるで、ティル・ケットシーという少女が『ティル・ケットシー』という部屋の中からひょっこり姿を見せたような、そんな感じだ。
 そう考えると、中身がそっくりすり替わったという言い方は違ってくる。中身がそっと顔を出した、と言うべきだった。
「ちょっと、しゃべりすぎた。今日は、もう寝る……」
 そう恥じるように言いながら、荷台の寝袋へと潜り込む。
 俺はティルの過去を何一つ知らない。一体どのような環境で生まれ、育ってきたのか。俺と同じような育ちなのか、それとも俺よりも酷い環境だったのか。
 ああ、しかし、ティル。きっとそれは自分で見つけるモノじゃなくて、他の誰かに見つけてもらうモノなんじゃないか。少なくとも、俺は一人でそれを見つけることは出来なかった。
 今日は晴天だ。星月が輝いて見える。
 星を握ろうとして、その手を引っ込める。そしてトラックの運転席に潜り込むと、座席を倒してそのまま眠りに付く。
「俺も、少し喋り過ぎたな……」


2/「俺も、少し喋り過ぎたな……」――了
作品名:猫の妖精と魔法技術者 作家名:最中の中