蜜柑の実る頃は
秋祭りの日。晴れた空は、真っ赤な夕焼けを見せてくれた。
実花は、そっと家を出ると、泰造との待ち合わせの場所に出かけた。
一方、町での仕事を終え、泰造は家路を急いでいた。
だが、事故はそんな泰造の脚を止めることとなった。道路に飛び出した子供を庇って自転車にぶつけられたのだ。転んだ拍子に 脳震盪を起こした泰造は翌朝まで意識がはっきりしなかった。が、幸い、その後の検査で異常は見つからなかったものの、複雑骨折をした脚は、長期の治療を要した。
事故の連絡は、家族には入ったものの、村の世話役が知るくらいで、ましてや、不仲な実花の家族や実花の耳に入ることはなかった。
実花はと言えば、祭りの日の夜遅くに帰宅し、両親に酷く叱られた。
泰造を待っていたとも言えず、ただ両親の前でうな垂れているしかなかった。
翌日の早朝。実花は、置手紙をして家を出た。
『お父さん、お母さん、勝手してごめんなさい。でも幸せ探しに行きたいの。許してね。 実花』
朝、目覚めた両親は、実花がいないことに気付き、いたるところを探しまわった。
あげく、捜索願を出し、連絡を待ちながら日は過ぎていった。
町の病院に入院していた泰造も順調に回復し、退院の日を迎えた。
まだ、完全とは言えない脚を自宅療養しながら完治するのを待った。
あの日、果たせなかった実花との約束も気に掛かっていた。
だが、そんな泰造の耳にはいったのは実花が行方知れずになっているというものだった。
実花の事が気に掛かりながらも、毎日の生活に急かされながら泰造は過ごしていた。
大病を患っていた父親が、再度、病に倒れた。医者は、覚悟をしろという。
両親の願いは、泰造が世帯を持ってくれることとわかっていた。
泰造は、世話役の紹介で、見合いをし、結婚を決めることとなった。実花への気持ちに気付きながらも、心を決めざるを得なかった。見合いの相手は、ひとつ年上で、心優しく、どことなく実花に似ていた。