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セレンディピティ

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――この先は開拓された崖だ……崖に囲まれた真ん中にハルがいる。ヘリコプターから何人も……迷彩色の……兵隊? ロープで降りてくる。
 遼が見ても戸惑ってる様子がわかるハルの表情。逃げ道が見付からないように見える。銃口を常にハルに向け、距離を縮める。スピードがあろうと、パワーがあろうと、逃げられる見込みがない様子に見える。
 迷彩色の人間次々と降りる。20人はいるだろうか、ハルの回りに機関銃を持った、何重もの厚い壁。ヘリコプターの光は、ハルを中心に照らされている。迷彩色達は囲んだまま動かない。見上げるハル。顔は恐怖で引きつってるのか、口を開き、目も大きく見開いている。
 何かヘリコプターから降りてくる。電話ボックスのような檻。人が入っている。拘束されてマスクをした男。それはゆっくり降りてくる。ハルは苦しいのか震 えている。戦闘意欲は感じられず、すでに膝を地につけている。電話ボックスのような檻は、ゆっくりハルの目の前に降りた。
『いやああああ!』
 ハルは檻の中の男に、大きな恐怖感を声で表現する。周りを見回し、逃げ道を捜すハル。さっきまでの余裕が感じられない。周りの迷彩の兵隊は、全く動こうとしない。
『僕はどうする?』

 遼は考える。
――可能なら彼女を助けたい。けれど可能か? 道はあるのか?
 遼は集中して、運命の道を探した。
――道が見える……けれどハルまで届いていない! ただ突っ込むだけじゃ無理だ!
 突然鳥の大きな叫び声に、迷彩色の兵隊数人が、泣き声を確認する。
『あっ! 一瞬道が!』
 一瞬の物音で、兵隊の意識がぶれる様子。ハルまでの運命の道が見え隠れする。何か大きく気をそらせる方法はないかと。遼は見上げた。崖の周りは茂る高い 木。大木にはびこる、細い無数の道。この道はヘリコプターに繋がる道。しかしヘリコプターのプロペラで道が終わる。遼は林の辺りを見回した。木のひとつひ とつに、能力者だけに見える波長が見える。大きそうな波長もあれば、細い波長も、波うったり、ギザギザしていたりする。ギザギザで細い道を避けてここにき た遼は、ここまでの道と同様、消去法に大きく波の緩やかな波長を捜す。
『あった!』
倒れている枯れたような大木。一番良い波長を感じた。
『これを……どうすれば……』
 遼は持ち上げられるか試みる。普通なら見ただけで諦めてしまう大きさ。
『僕には今普通にはない能力がある! やらなきゃわからない!』
 自分に言い聞かせる遼。すでに今までの人生では有り得ない事の連続。頭で考え避けてきたような、無理と思っていた行動。思考は少しずつ、考えるより体験から覚える、脳内革命が始まっていた。
『んんっ……あっ! やっぱり! 波長の合うもの! 正解な事には力が発揮出来る!』
 大木を抱えながら崖に近付く。大木を抱えて道を探すと、また違う道が見える。
『さっき以上の道の数だ』
 ハルは両手を地につけて、もはや立ち上がる気配には見えない。
『急がないと』
 遼は大きく波の緩やかな波長を捜す。しかし崖の下には見当たらない。遼は目線を上にずらした。
『こういうことか』
 大きく波の少ない波長が、ヘリコプターに向かって伸びている。
――僕があそこに? いや届く気がしない。
 大木を強く抱える遼。波長も大きくなる。
――わかってきた……けれどその後は……信じよう……自分の能力を!
 遼は少し後ろに下がり、大木を肩に乗せた。
『ああああああ!』
 崖付近まで一気に走り、抱えた大木をヘリコプターに向かって投げた。狙いはわからない。従ったのは見えるライン。波の軌道に合わせて投げた先、砕ける大 木の先には、肉眼で羽の動きが見えそうなほど、回転が遅くなるヘリコプターの小さいプロペラ。迷彩色達は皆、ヘリコプターの異常な音に反応する。ハルに向 かって伸びる道。波は激しいが、大きな道が現れた。
『運のかたよりを! 自分で見つけたんだ! 僕は!! 今だ!!』
 数人が遼の存在に気づく。遠回りだが、一番大きい波長の道に駆け走る。普通に見る者には明らかな無謀。自ら捕まりに来たのかと想像してしまうほどの登場。
『ハァッ!』――この距離とタイミングじゃ! 普通に彼らにやられる!
 兵隊たちは、遼に銃口を合わせる。ハルは動かない。
『ハァッ! ハァッ!』――何が起きるんだ!? 無理じゃないのか!?
 自分の道を信じて、だが何が起きるのか想像も出来なく、不安も混じり、無我夢中に走る遼。兵隊達は勘繰る。何か所持しているのではないかと。それ程無防備に、遠回りに、こちらに近付いてくるただの青年。
 ヘリコプター1機への攻撃。意識の分散。事故機より離れようとする他のヘリコプター。それだけの事だった。油断した事は、ヘリコプターに下がるロープの 存在。ヘリコプターの小さいプロペラが、機能不調になったことによりぶれる機体。その機体から下がるロープは、檻を下げた鎖に絡まる。強度を考え重ねた鎖に絡まるロープ。それを中心に故障したヘリコプターは旋回。操縦不能なヘリコプターの危険な旋回は、衝突を免れる事は出来なかった。大きなプロペラが激し くぶつかる。羽を失った機体。自分達の真上でおきた出来事は、被害規模の予想が難しい。離れる事が最善。「拘束力のない」集まり。雇われた集団は、各々の 安全地帯に避難。遼はその隙にハルに接触。
『ハル!』
 意識が無いことがわかる。ハルを抱え大きい波長の道の続きを走る。安全を確保した兵隊は遼に向かって激しい銃撃。遼の運命の波長は変わってない。止まれない。道があるうちに、消えない限り、振り返らずにハルを抱えて走る。
 ヘリコプターの真下は檻。一直線にヘリコプターが堕ちる。そして檻と鎖で繋がれたヘリコプター。巻き込まれた先は一緒。激しく爆発する2機。上昇中の1機は、爆発から避難するように離れていく。
 走り続ける遼。道はまだ続いている。止まれば終わる人生。止まれば望まない人生。遼はすでに体力が限界にきていた。一歩でも道の終点に近付きたい。この悪夢から逃げ去りたい。
『ハァッ!! グハァ! ハァッ!』
 気持ちの限界。何がおきても抵抗の手段がない。止まる足。ハルを丁寧に光の上へ置く。軽くならない重圧。まだラインは見える。せめてその光が見えるうちに、光の上で意識を失う事を選んだ。

 機関銃の音が響く森林。それでも目を覚ますことのない遼。どれだけ時間が経ったのか。
『起きて!』
 顔に痛みを感じる。その痛みは直前まで自分を襲おうとした銃弾とは違い、じんわりと感じる程度な手加減を感じた。
――どのくらい気を失っていただろう。
 目が開かないうちに、再びハルに平手打ちされて無理矢理起こされる。
『っつ! 痛ぁ! ハル!』
『逃げるよ!』
 自分達に向けられてない銃撃音。状況がわかっていない遼。察したハルは簡単に伝える。
『いま奴ら……戦ってる』
『えっ? 誰と? 僕らの味方?』
『そんな優しいもんじゃないわ』
『え、じゃ、じゃあ、とにかくここはまずいよ!』
『あなた道は見える?』
 遼は思う。なぜ自分の能力を頼りにするのか不思議に感じる。けれど、無駄な動きのないハルに、余計な質問の無意味さにも慣れてきていた。
『捜してみる』
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ