セレンディピティ
風間の驚嘆の間もなく清正はハルに抱きつく。
『なんじゃ?? フェムが見えん! 見えんぞ!』
遼と鈴村は目を合わし、盛清の驚く様を見て回想する。
遼はハルの元に向かう直前の見えないフェムの時を。
鈴村は町田に接触した時を。
◆◆◆
『多分この右に向かうフェムの先が、ハルのいるところ…けれど左側に道は……なぜフェムがない!? 明らかな道ならどんな道にもフェムが見えるはず! 見 えないなんて……けれど僕の目的は………うぅ! があぁ!! 踏み込むだけで……ものすごい脱力と激痛だ……ほかの運命の道はハッキリ見える……けれ ど……これは実際何のための道だ? これは自分を守るため? それとも……盛清さんの言っていたような……能力のためなら、そして、このフェムのない先 は……自分で運命をつくる「本当の自分のための道」じゃないのか? 自分の道……自分の為の道……能力の道……能力の為の道……能力は引き合う……何 故……引き合う……ひとつに? ひとつになったらどうなる? ひとつになれる? 何故ひとつにならなかった? 誰も……危険な目に合わなかった? どうし て僕はこんな目に? 僕はどうして死ななかった? 何度死ぬ目に合った? 死んでもおかしくない……僕は……僕は……ああ! 頭が痛い! 何か! 何か忘 れているような……僕は……坂で死んだ? 僕は……ああ! 電車に轢かれた? 頭が痛い! どうして! どうして! そんな記憶がある!? 公園で撃たれ た! 森林で撃たれた! 船で! この人は誰? ナイフで! 僕を! ああ! でも何も起きてない! 丸一日が何十日もあるみたいに! 何度も同じ体験 を!? ハア! ハア! 行かなきゃ……この先に……』
ハルも気掛かりであったが遼は何か確信が見える気がしてした。そしてフェムのない道に向かう。
フェムがない道で遼の体は突然重くなり負傷した体は今にも倒れそうになる。引きずる様に歩く先には鈴村が倒れている。
『あなたは……』
ゆっくりと近づく遼。そして鈴村の体を揺さぶると、震えるまぶたがゆっくりと開き、薄い目で遼を見た瞬間、大きく目を見開き、失いそうだった意識が戻る。
『お前! 水谷!!』
『あの公園で会った刑事さんですね……あの……僕、取り返しのつかない事をしてしまいまして……』
『水谷!!!!』
『はい!!』
『お前……あんな能力に取り憑かれて……大変だったな』
遼はキョトンとした。自分がやってしまった事にまさか同情され そして能力を理解している事に。
『お前、いい道通ってきたな! 別の道ならお前に用がある奴らに鉢合わせになるとこだ』
『一体誰が……』
『お前が目を潰した俺の同僚と、知らねえジジイだ、うっ! あぁ! もう体が動かねえ……俺もお前と同じように誤解されたまま世間のみせしめになるんだろうな……何だろ……この悔しさは……くそー!!』
――この人は僕と同じだ……意味もわからず能力に触れて逃げ場のない苦しみ……。『まだ生き残る道はあるはずです! 諦めないで下さい!』
『でもよ……』
遼は鈴村に近づき、遼は突然倒れ込む。
『お前! 能力を移したのか!?』
『は、早くヘリに戻って警官隊に奪われないように助けて上げて下さい! 捕まっても理解はされない! 今なら間に合います! まずはここから脱出すること です! そして……今、僕が知っている限り、能力を持っているのはルーアというチーターとハルです! 能力は、理由があって能力者同士引き合うと僕は考え てます! 三つある能力を僕は、ひとつにしたいんです!』
『ハルって、あの女か? なら今はもってない……俺に移り、変なじじいが連れた俺の相棒の町田に移った! 何が起こるかしらねえが、わかった……なんとかする……で、お前は……大丈夫か?』
能力が抜けた遼は、奮い立ち上がる。
『僕はハルを連れて必ず戻ります! 時間がない! 急いで下さい!』
『そうか……わかった! あ……これ、ん~~……いいや……持って行け』
遼が渡されたのは拳銃。
『え、僕に拳銃……扱えません!』
『変な奴らがうろついてるこんな危険な場所に丸腰のケガ人歩かせる方が問題だ! 拾った事にしておけ! 先にいくぞ!』――能力を集める……か、今あるのは、加藤から奪った町田だな……間に合うか!
そして、その後町田と接触した鈴村は、風間からの銃撃の盾となった町田へ背中越しにささやいた。
『町田! よく聞け! 俺はお前に近づき、どちらかに能力が移る! なんとかして三つ集める! お前に移ったなら、こいつらを止められる』
町田の肩に触れた鈴村。身体的に町田より負傷を負っていた鈴村に能力が移った。
保有する二つの能力。それを抱えたまま、清正の元へと走り出す。
◆◆◆
盛清が成し遂げたかった三重重複は、遼も目的としていた、すれ違う行動。
盛清の誤算は、遼が能力を持ち続けていたという思い込みの誤算。
町田の能力が鈴村に移動していた事を気づけず、持ち続けていると思い込んだ誤算。
鈴村が、遼と町田から能力を吸収し、二重重複になっていいたという誤算。
盛清の見た清正の能力は、鈴村から移動していた二重重複であったという誤算。
そして、町田を貫いた時に「盛清は町田に能力を奪われていた」誤算。
遼の行動と言葉により、虚偽を盛清に感じさせる事が正義と判断した町田と鈴村。遼の偶察力によるものだと気付くスベが盛清には、今はもうない。
『なぜじゃあーー!!!!』
盛清に向かってヘリコプターのプロペラが、コンクリートの地面に火花を散らしながら襲い掛かる。
『ガアアアアアアアアアアア!! あ……』
切り刻まれる野望と理想の未来。
『ハル!!』
止まらない朱いヘリコプター。
『パパ……フェムは見える?』
『ああ……』
『連れてって……』
清正に見えるフェム。蛇の道が二人を中心に円形に広がる。その場にいる全ての者達を、密かに包み込むように。
『フェムは上にも見える……行ってみるか?』
『うん!!』
全ての者に見える危険な火花。
『ハル! 危ない!!』
全てが見えない自分の光を走る者。
『町田ーー!』
『ハルーー!!!!』
火を纏(まと)い始めるヘリコプターにより、見えなくなる三者。爆発は何者かを飲み込む。
ほんの一瞬、人の形に見えた何かがひとつ。その場にいる者の目線は、爆発よりも、もっと上を向いている。
その場にいる誰もが認識できる光。爆炎の煙の先に見える、地面に横たわり抱き合ったハルと清正も見上げている。
『町田さん!!』
その光景の神秘は、束なる光に支えられ、ゆっくり、ゆっくりと降りてくる。
見るもの全て息を飲む。
人をかたどった一本の木のように。その者は、夢柱となり、消えていく。
見たものから、次第に、自分の変化を認識し始める。複数の因果関係のないところで同時に起きたと思わせる、シンクロニシティを感じさせるように。人口密度のまばらな時代でないことからも、その光は人から人へ、必然的に連鎖する。
『この光はなんだ?』
『俺は強い!』
『わたし……歩けなかったのに』
『これは……私が進む道』
『私達! 特別よ!』