セレンディピティ
もがく盛清よ。お前は俺が想像する人間とは違うな。お前とは未来を語れない。お前のは、ただの自己満足だ。やはり期待できるのは、次世代なのか?
『グガアアアアア!! リョーーー!!』
『この腕力! 何か違う生き物のようだ! 遼!! 撃てーー!!』
『は! はい!』
無意識の怪物への変貌か? 自分の欲望をむき出したか? 抑えられない我が儘な自負心か? コントロールを失うと、人間はだれでも怪物になると言えよう。そして一度外した遼の手元。狙いに自信のない震え。外した素人に託すほど、風間にも限界がきたか。遼よ……その迷いの先には「また同じ時間を繰り返す 事に」なるぞ?
『う……うつぶせになれ……肘を固定して』
『町田さん!』
盲目の町田よ。お前は盛清に助けられた義理と、光を与えられる希望と、遼の奇行を持ち出し、残酷な未来を盛清より吹き込まれ、人類の平和を語る盛清の計画に、期待し、同調した。能力を操る体力も精神力もない事を知らずに。
『連続で撃て!!』
『はい!! ああ! 駄目です! 狙えない!』
『グガアアアアアア!!』
『があ!!』
『あああ!!』
腕を振り回し、風間とハルを振り払う盛清よ。何を目的に足掻く。そして、密かに町田にささやく遼よ。無意識にも歴史に巻き込まれる血筋。セレンディピティを備える者は、いつの世界でも、誰かを護る者に備わる。
『ま、町田さん……僕とハルには……この場所に来てから「元々」能力はありません!! あるとすれば、あなただけです!!』
『そうか……この……銃口は……出浦盛清の方向だな?』
『は! はい!!』
『出浦ーー!!!!』
盛清に突進する町田よ。それが正解だ。お前の先に待つ怪物に、自分を護る余裕はない。繰り返されない事は、一つの正解だ。お前の背中から突き出た盛清の腕は、再びお前に光を与える事だろう。
『があ!!』
体に刺さった盛清の腕を抜きつつ、蹴り飛ばす町田よ。見えているだろう? 光が。
『あ……が……みんな……逃げろ……能力を……奪われた!!』
『くう……ハハ……カハハハハ! 能力をわしに奪われたか! 町田よ! 気を失うかと思うほど強い蹴りじゃたわい!! カハハハハ!』
優位感、盛清、お前にとっての悦楽な歓喜なのだろう。
『盛清さん!! お願いです! もう僕たちには能力がありません! 邪魔もしません! もう……関わらないで下さい……』
最後の嘆願か……お前には、どんな近い未来が見えている? 何を願う? だが、お前の言葉が、正解となる。
『このわしが、ついに、重複できたということか! こんなに実感のないものか!』
『いえ……僕にはあなたが、フェムが、光って見えます……何か、とてつもない力を感じます』
『俺にもだ……目の見えない……俺にもわかる……』
『そうか!! そうか!! 片鱗があるのじゃな! わしは完成したんじゃな! 三重重複を!! カハハハ! ええじゃろう、目的を達成したんじゃ! 遼よ! 特に今、お前には手が出せんのじゃ……お前は特別な人間じゃからな』
そう、特別な人間……今の世界の中では。
そして盛清よ、お前は特別になりたかった。特別になれなかった。遼に嫉妬する。凡人だ。
『おじいちゃん……今までありがとう……今朝までは……大好きだったわ』
背中を向ける過去への決別か。お互いの正義が違う時、このような争いが起きるものか。
いつの時代も変わらない。だから、人間は、破滅に向かう。
『春枝や、わしのフェムが見えるということは……すでに全員が能力者となったということか……わしを放っておけるんか? 今にもルーアが襲ってきそうじゃ……わしの能力はこいつに負けるもんでもないが、試すか? 風間よ』
探る盛清の眼光……殺気立つのは野生の牙と主人の言葉か。
『風間さん……ルーアには動かないように止めてて下さい……お願いします』
ハルの言葉に同調するか?
『く、あ~~……ルーア……動くな』
『なんじゃ……まあ良い、わしはこれからが忙しい! 長生きせんとなあ! カッハッハッ!』
ハルに背中を向ける盛清の高笑いは、盛清にとってのセレンディピティの完成を意味するのか。
『なんでやらせねえ! ルーアなら!』
『いいの……ひと時の悦楽よ……道は自分で決めてもらうわ……だって、見えないの。あの人のフェムが……何か、ある』
風間の目線の先に見える遼のうなずきは、その何かを期待せずにはいられないだろう。
盛清に駆け寄る加藤陽菜よ。お前はもう、広金達哉に逢えない。
『ねえ! 達哉は!? どうやったらまた会えるの!?』
『あれは、何者でもないんじゃ……広金達哉の姿でなくてもいいんじゃよ、きっとなあ……そうじゃろ!! 聞こえてるんじゃろ! あんたには全て! 感謝しとるぞ! わしを選んだ事をなあ! そのうち見えるじゃろ!! 別の能力も!!』
盛清よ、俺はお前を、選ばない。期待はした。だから、遼と初めてすれ違った時、お前に見せた。いくつもの、遼の死を。だからお前は信じた。特殊な能力を持ち、知識を得たから。この世界の始まりを知ったから。
そして加藤陽菜。確かにこの姿でなくても良かった。だが、この体が表現をしやすかった。お前たちの記憶に新しい事もあり、都合が良かった。それだけだ。 だが、それだけの理由でも、多少の必然性を感じずにはいられない。だから多少は期待しよう。広金達哉の子供に、次の世代に。そして、これ以上、俺の解釈は 控えよう。無駄口は控えよう。これからは「記録」だけを、しばらくは見たままの情景を。ここはまだ、お前たちの世界だから、その時がくるまで、眺めるだけ にしよう……。
盛清はヘリコプターの先、警官隊に向かってゆっくり歩きだす。
『さあ! 無駄な争いを終わらす時じゃあ!!』
狙撃部隊は操縦席に向かって集中発砲している。ヘリコプターは安定を失い危険な動きを始める。
『パパ!』
墜落途中ヘリコプターから清正と鈴村が飛び出す。
『がああ!』
二人は互いが互いを抱えるように飛び出してきた。突然、眼光鋭く清正は、鈴村を思い切り蹴り飛ばす。
『な!! ぐあぁ!!』
清正は狙っていたかのように、鈴村は緑生い茂る人工花壇の中に柔らかく転がる。負傷したはずの両足で着地した清正の近くに、盛清が立っている。
『お前が立てるとは! やはり能力が拡散したようじゃな! そして清正、ご苦労じゃったな……もう目的は果たした』
『父さん!! いったいどんなことが』
『パパ! こっちに!』
清正はハルの元に駆け寄ろうとする。するとき見えているのは、自分のフェムだけでなく、全ての者のフェム。誰にとって最善の道かが読める奇跡。その中でフェムの見えない近い存在。そして操縦を失ったヘリコプターが盛清と清正に、今、正に衝突しようと目前へと近づく。
『清正……お前が長になるのは、もっと先になりそうじゃわい! 近づく危機からは全て回避できる! わしにとってこんなものは……ん!?』
『パパ!!』
ハルは清正に向かって走り出す。
『ハル! フェムが細い!! 来るなーー!! フアアアア!!』
両足に包帯を巻かれた清正の走り出す奇跡の初速。
『ハハ! 清正、なんて速さだ!』