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セレンディピティ

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 ルーアに噛まれた腕を組んだまま盛清の目を離さないハル。
 手錠を繋がれたままの遼
 盛清が見るフェムに見え隠れする流れ。
『確かに……そうかもしれんな』
 手錠の無意味さを感じる盛清。遼への警戒は、見せられた風間との駆け引きから、そして、冷静になってわかる、この世に三体分しかない能力。もうひとりの能力者は誰かという懸念。
『おじいちゃん! 説明して!』
 動きを止めた盛清に感じる冷静。
『あなたは! 何が目的なの!? 三重重複? なに? 私との約束は!?』
 そんな陽菜を含め、逃げられない者達。求めるものは納得。
『約束か? わしの目的と比べたら取るに足らんわ!』
 開き直りに見える本音。願いと希望が、小さく、薄く、消えそうな泡。
『全部……嘘? 利用しただけ?』
 盛清に見えるフェムの奮えは、拳銃を握る陽菜の感情と同化。回避可能な盛清の余裕。
『そうじゃ! あぁ! そうじゃ!! わしの存在を隠す為に利用したんじゃ! 加藤陽菜! お前が遼が町田と鈴村を相手にしたところを目撃したことで! もしかして、遼が達哉を殺したのではないかと言う疑念の心理を利用しただけじゃ!!』
『利用ですって!?』
『皆にいきさつを言おうではないか! わしは加藤陽菜に連絡を取り、こう言ったんじゃ!』
 盛清の語る陽菜とのやりとり。さかのぼる瞬間は、公園での出来事の後。
     ◆◆◆
『イヤアァァァァ』
 遼の凶行を目の当たりにした陽菜。遼に背を向けて逃げる様に走る陽菜は、自然と駐車した車に向かう。
『ハァ! ハァ! 何? 何なの? 遼は! 遼になにが!? ハァ! ハァ!』
 駐車場。車が見える。すると陽菜の車に腰を付け、明らかに待ち構える者。
『誰? 今! あの遼! い……いぇ……』
 取り乱す陽菜に話し掛ける者。
『大変な目に会いましたね。私は出浦清正と申します。どうかこの携帯の方と話して下さい。今の混乱した理由が聞けますよ』
 理由。
 震えの原因。
 遼。
 達哉。
 入り混じる感情と目にした現実。震えながらも、携帯電話を手に、答えを欲する耳へあてる。
『はい……』
『広金達哉は……水谷遼に殺された』
 早い結論。すぐに聴きたい理由。陽菜が口を開けるまでに続いて聴こえる言葉。
『奇妙な力があり、身近な者を死に追いやる』
 凶行を理解している者。高齢と感じさせる深み。
『妊娠……していたんじゃろ? 広金達哉の子を』
 調べられている形跡。まだ言葉を発していない陽菜。
『遼は……知っていたんじゃよ! そう! 知っていた! あの奇妙な能力はな! 自分の死を免れる能力なんじゃ! 自分の身代わりになるために、未来ある 友人を巻き込んだんじゃ! 大きな力が働いとる……もしかすると、警察内部の協力者か組織的か、先ほど見たのも……誤魔化すための演出かもしれんの……』
 陽菜の言葉を待つ盛清。清正の目に映る震えが止まった陽菜。瞬きも許さない見開いた目には、清正にとって何度か目にした事のある殺意の瞬間。
『遼を許せない……復讐したい……』
『協力すれば……それは叶うだろう。清正に後は聞いておくれ』
     ◆◆◆
 経緯を理解した遼とハル。
『陽菜! それは違っ! いや……』
 嘘と本当が混じる話。重要なのは、遼に備わった能力。遼が原因で死んだ達哉。否定がしきれない遼。
『そうじゃ! 遼よ! 君が原因で広金達哉は死んだ! 大部分間違いないわい!』
 嘲笑いを感じる盛清の口調。笑みを残しながら振り返り、横たわるルーアと座り込んだままの風間を眺める。
『そこで問題だったのが風間の存在じゃ! 清正の能力を他国に売りたがっとったからなあ! じゃが所詮傭兵! 金と新しい身分を約束すれば! 味方となる! 加藤陽菜を経由して! 風間に報酬を払い! 陰で動かしとったんじゃ!』
 盛清を睨み、唾を吐く風間。
『な~に気持ち良くほざいてんだ? ただ利害が一致しただけじゃねえか?』
 風間の皮肉に顔色を変えない盛清。
『その隙を見付けられる者がどれだけおるんじゃ! カオスをまとめられるのは! セレンディピティを理解した者だけの能力じゃ! カッハッハア!』
 甲高く笑う盛清に合わせる様に、軽蔑を含ませた笑いをする風間。そして胸のポケットから取り出したタバコに火を点ける。
『けどよ~……あんたの思惑……失敗したんじゃないのか? その~、重複? 出来たのか?』
 風間の笑みに表情を落ち着かせる盛清。ハルが見付けたかった、盛清に付け入る隙。
『おじいちゃん……もう、ここまでにしようよ……いつものおじいちゃんに戻って』
 日常へ戻る誘い。ハルからの赦し。ハルに背中を向けている盛清の複雑な表情を唯一理解した風間。変化する微表情の最後に落ち着いた顔は、戦場でよく目にした、覚悟を決めた顔。
『チッ……お嬢ちゃん……この人はもう、戻らねえよ』
 ハルに背中を向けていた盛清は振り返り、信念を発する。
『わしの人生の最終目的は!! 能力の重複した未来じゃ!!』
 人生の目標を言い切る盛清。温度差の違いは、目標がもたらす意味。ハルにとっては日常を平穏にする願い。
『何が興るか知らないわ! けど、それがここまでするほど重要な事なの!?』
 簡単に言い返さない盛清の力強く締めた口。ゆっくり開きはじめた言葉を選ぶ盛清。
『本当はな……理解は……結果を知った後でいいんじゃ……順番があった。まず……春枝と遼を合わせた。そしてわしは警察に通報し、加藤陽菜経由で風間に傭 兵を集めさせて、森林を警戒させた。きっと能力を使いこなしてる春枝と違う遼は、死期を呼ぶ負傷をして、春枝の能力を奪い二重重複となると思った』
『あれは……おじいちゃんが呼んだの!?』
 ハルの責めを受け流す盛清。荒々しさを隠し、丁寧に言葉を進める。
『能力が春枝から無くなるのは清正の望むものでもあった。だが春枝は優秀すぎた。服を奪い身代わりとなって逃がし、腕を撃って死刑囚から死ぬ前に奪ったと は、よくやったものじゃ……じゃが春枝も遼も放っておけば死ビト同士。能力は動かんかった。清正の救出に春枝も遼も死期が遠ざかった。本当はその時完成す るはずじゃった。春枝の偶察力を、わしは見くびっておった。風間に遼の拉致を依頼……清正は勝手に根絶やしにしようとしたが、それは能力で遼は乗り切っ た。船で起きた惨劇は田村の暴走じゃな。そしてわしは風間に清正から能力を奪うよう依頼した……殺さぬようにとな。風間に再度遼の拉致を依頼したが勝手に ルーアに能力を移しとった。なんとか春枝のおるこの大学へ能力者全員を集めたかった……』
 度々言葉の横槍を出したい空気感。各々に浮かぶ疑問。攻撃を受けた者ほど、軽口な横槍で、素朴な疑問を発しやすい。
『なんでよぉ……そんな面倒な事をしたんだ? そもそも三人そろってたんだからよ! 勝手に身内で殺し合えばいいだろうが!』
 風間の質問は、盛清から引き出す本音。
『世間に知られる事件にしなければ、理解が遠いんじゃ……人を集めなければ……自分達に興る自体への理解。情報は混乱を招く事もあれば、防ぐ事にもなる!』
 はっきりと見せない本音。
『どういう……』
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ