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セレンディピティ

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 両腕を首に巻くように、身をかがめて引かない態勢。
『ハル!!』
『くうぅ!!』
 腕に噛み付かれた痛みより、先に確認が出来たルーアの顔。現れた野生的な暴力。陽菜にとっては究極な恐怖。
『キャアアァ!!』
 血まみれのルーアの姿。革の上着に食い込む牙。執拗(しつよう)に噛むように見えたルーア。一瞬の静止。ルーアは突然、力が抜けたようにその場に倒れる。
『あぁ……く……ハァ……ハァ……おじいちゃん……ハァ……ハァ……どういう……事……』
『こういうことじゃ』
 車椅子をすでにハルの前まで寄せた盛清。
 ハルの目の前に町田。その表情は、引き攣らせ、何か拒みたいのか。下がる口元は、情けなさよりも、迷いのジレンマ。迷う町田の耳元で囁く盛清。
『能力に支配されとれば、何の感情もなく楽だったなのう。じゃが、これで終わりじゃ』
 あと一歩、そんな距離感。ハルから見た町田の表情。それは引き攣りが無くなり、端正な顔つきに。
『うぁぁぁあああああ!!!!』
 猛る町田。ハルに向けた背中。見えなくても、掴める標的。振り絞る声と力。正確に掴んだ盛清の襟と腕。刑事として慣れた柔術は、声を発する暇も与えず に、盛清を地面にたたき付ける。盛清を地面と自分で挟み込み、左手で押さえた首。振りかぶった右手。盛清の表情が見えない町田は、躊躇なく振り下ろす拳。
『ま、待て! ぶがぁ!!!!』
 再び振りかぶる拳は、目標を見失わない。見えてれば手加減を考えられた。埋まる拳。また振りかぶる。更に拳と地面に挟まれる盛清。すでに声が出ない。
『もうやめて!!』
 ハルの声に動きが止まる町田。その一瞬は、盛清に鉤の手を握らせる隙。
『がはぁ!』
 腹部への違和感から激痛。見えない傷口と、すでに隙を与えた見えない攻撃。後方への回避。倒れた先は遼の目の前。逃げなければ裂かれていた首。町田に気を取られたハル。ハルの左手を両手で握る盛清。背筋が震える様な温もり。
『させるか!!』
 ハルと盛清を抱える様に飛びつく風間。ルーアにつまづくハル。倒れ込む三人の先には、倒れた町田に手錠を繋がれた遼。
『がぁ!』『あぁ!』
 落ちている拳銃を静かに拾う陽菜。起き上がるルーア。
『くぅ……ハル? 大丈夫?』
 順次起き上がるハルに風間。起き上がらない町田と盛清。一番状況の複雑さを理解している風間。
『誰が……能力者だ!』
 目つきが変わるハルと陽菜。目的の違う面々。誰かの攻撃は、誰かの死に。
『あんた……何が目的なんだよ!!』
 盛清に向かって叫ぶ風間。
『どうなってる……』
『おじいちゃん……』
 理解が及ばない温度差がある遼とハル。奇妙な凹凸を感じたくなる、盛清の朱く腫れた顔。それでも、ゆっくり体を上げながら、おそらく笑みを浮かべているであろう崩れた表情で言葉を零す。
『ガハハァ……ハァ……わしが夢柱になることで! 三重重複(さんじゅうちょうふく)の……完成が見えたわい!!』
 盛清が言い放ったと同時に衝撃が走った。それは盛清の放つ言葉の意味ではなく、突然聴こえてくる爆発音。想像できること。それはこの場にいない者。
『パパ!?』
 この場に居ない事での必然性。警官隊との相手になりえる存在。それまでの出来事へ時間をさかのぼる。
     ◆◆◆
 着陸していたヘリコプターのドア付近で、ルーアと共に威嚇する清正。
 清正とルーアを制圧したい警官隊。ルーアによる直前の惨劇は、警官隊の攻撃を躊躇させるには十分な結果。ルーアの背後に目を配る清正。人員を集め、刺激しない様に囲む警官隊。
 ルーアの挙動が突然俊敏になった。首を細かく動かし、正確な位置を探る様子。それはルーアにしか聴こえない風間の唸り。緊張が高まる警官隊の視線には、瞬きの間に消えた朱い獣。
『校舎裏!?』
 朱い軌道を確認出来た清正。ルーアの所在を確認したい無数の目。清正にとっては、すでに消えた戦力。周りが警戒してる今、ヘリコプターのエンジンをかける清正。連絡を取り合う機動隊。手振りは、間合いを詰める合図。
『くっ! マズイ!』
 近付かせたくない間合い。時間が必要な離陸。ヘリコプターに装備された機関砲の角度を無作為の様に変える。些細な機関砲の動きに反応する機動隊。機関砲 の先に居る警官隊に人払いの指示。ヘリコプターの後ろに歩み寄る機動隊。邪魔が有り得ない制圧への自信。防御に徹する警官隊の目を光らせる中、ヘリコプ ターの真正面から向かって走ってくる者。清正にとっては、止めるべきか、撃つべきか。警官隊からは絶妙な距離間。角度を固定する機関砲。清正に銃撃される 可能性。全てに理解の及ばない行動は、機動隊の制圧を躊躇させる。今にも離陸を始めようとするヘリコプターのドアに手を掛ける男。
『ハアッ! ハアッ!』
 肩に掛けた機関銃を構える清正。
『まっ待て! 俺はハルって女と逃げようとしたんだ!』
 清正が機関砲で銃撃を躊躇した答え。
『お前……鈴村か!?』
『そうだ! あの女の言う通りキャンパスに出たらあんた達が降ってきた!! そして……』
 清正のよそ見を見逃さない、高い位置からのスコープの目。狙撃部隊は発砲する。
『があ!!』
 ヘリコプターの正面硝子にはシャープな穴。機関銃を落とす清正へ走る肩の激痛。
『鈴村ー! 生きたかったらヘリを……』
 すでに操縦席に近付いていた鈴村。
『お前……操縦出来るのか?』
『で、出来ねえ……けど…「見えるまま」だ!』
 ヘリコプターは暫く不安定な動きをしながら応戦するように、校舎の高い場所に機関砲を砲撃する。激しく割れる校舎の硝子。狙撃手は一旦避難する。ヘリコプターは安定を取り戻し、警官隊に機関砲を向け威嚇する。
 その衝撃がハルのいる場所へ不安を運んだ。
『お~お~……向こうは派手にやっとるのう……春枝、ご苦労じゃった』
『はぁ……はぁ……な、何の話?』
『くぁああああぁぁぁ!!』
 殺気か狂喜と見える六者の勘。能力者に共通した霹靂(へきれき)な雄叫び。能力のないルーアは踏み込めない存在感。
『動かないで!!』
 狂喜かと勘を働かせた者。拳銃を構えた陽菜を勇姿に見ない六者。
 拳銃を構えてから自分の行動が愚かだと気づく陽菜。
 危険な刹那に嘲笑うのは盛清。
『がはは! 何も起きん! フェムはお前を意識しておらんわぁ! じゃが』
 目が泳ぐ陽菜の視界から消える盛清。
『くぅ!! がぁぁ!』
 大袈裟すぎる腕力に吹き飛ばされた風間。そして風間のいた位置に凜と立つ盛清。風間が殺意を持ち忍ばせていた、鞘が必要なシースナイフは、盛清の手中。
『もう、ええじゃろ……風間よ』
 風間が受けたダメージの深さ。機動隊による左足の銃撃。盛清による左腕の銃撃。盛清による右腕の変形。自分を眺める風間。
『は、はは……いいぜ、好きにしな』
 覚悟の風間と狂気な盛清との間を、風間に向かって力なく近付くルーア。風間の右腕を舐めると、その場で静かに寝そべる。
『ルーア……』
 シースナイフを構える盛清の殺気。
『動かないで下さい!! 僕には能力があります!』
 動きを止める盛清。振り返り、辺りを眺める。
 意識の見えない町田。
 震える陽菜。
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ