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セレンディピティ

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 ハルは鈴村と距離を開け、出来事の核心に近付ける可能性に向かって走り始める。
『くそー! 俺は死んだー!!』
 鈴村の体がねじられるように奇妙に動き始める。
『ぶあー!? はあー? あああああー!!!!』
 機動隊と狙撃部隊は、鈴村に向かって指示を受けた銃撃を始める。距離があるとはいえあまりにも手応えを感じない。その不思議な光景に、警官隊は理解が及ばない。
 鈴村だけに照準を合わせる機動隊。校舎裏へ走り続けるハル。
『ハァッ! ハァッ!』――この状況で私達の邪魔をする人間! 私が捕まった方が都合がいいの!? 遼を餌に鈴村をおびき寄せ、私から能力を外す!  ハァッ! ハァッ! けれど……それじゃあ、ここまでおおごとにする意味は!? あまりに突発的。鏡……やり方が不確実。感情的……感情? ハァッ!  ハァッ! 女……鈴村の読み通り? 計画にない勝手な行動? この事態は、そんな短絡的な女の仕業じゃない! もっと……偶察力を理解した人間。
 ハルは逃げたと思える方向に走り続ける。
『ハアッ! ハアッ! どこ!? くぅっ!』
 滲む朱色。忘れていたい傷口。次第に青ざめるハル。能力のない非力な感覚。頼っていた能力。今の自分にあるもの。忘れたい傷み。
『ハァッ! ハァッ! はぁ……はぁ』
 立ち止まるハル。思い出す大事な事。それは親と子の会話。
     ◆◆◆
 ある日、ハルと清正に対して、道に迷った老婆が聞いてくる目的地への行き方。簡単な道を指を立てながら教える清正。その様子を眺めるまだ幼いハル。老婆の背中を見送りながら、ハルは清正に尋ねた。
『パパ。能力が無くなったら何を頼りにするの?』
『一緒だよ、ハル』
『何がよぉ』
『能力と同じ。六感がなくても、五感はある。能力を活用する時でも、落ち着き、息を整えて、集中する。能力は目に映る。五感は元々みんな持っている。経験 や知識が及ばなくても、研ぎ澄ませれば、見えないモノが見える。俺達と同じで、僅かな気配は気付くものだ。偶察力を発揮する機能の基本は、元々人間には備 わっているんだよ』
『ふ~ん……なんか……お父さんって感じ』
『は・る・え!』
『春枝って言ったなー!』
 思い出したのは、笑いながら清正を追いかけたハル。隠れる清正は、足音や、わざと壁をたたいて気配を教えている。隠れながらハルを待つ清正の後ろには、すでにハルが笑顔で立っていた。腰に手をあてながら、清正に伝えた言葉。
『能力がない自分なんて有り得ないもん!!』
     ◆◆◆
 校舎裏。立ち並ぶまだ咲かない桜の木。息をつく。いつもは見える。目をつむれば今は暗闇。使える五感。匂い、音、感じる風、霞む目に映る枯れ枝、乾く 口。雑音は自分の迷い。勇み足は混乱の一歩。静かな心は、同時に感じる五感。探る違和感。いつもはある道標。新鮮な人間らしさ。傷口の鼓動が伝わる。心臓 の鼓動が聴こえた頃、伝わる情報。流れる存在。
『これ……香水……風上は……』
 よどむ気配。近付く予感と体の限界。この道の先をイメージする。枯れ枝の音。誰かの油断。ハル以外の人為的な音。イメージと重なる音。迷う必要がなくなった。走り出すハル。わかる距離感。見える壁の先。校舎の角から消える人影。
『ハアッ! ハアッ! 見付けたわ!』
 角を曲がった瞬間にハルは叫ぶ。
『撃つわよ! 捕らえたわ!』
 確認しないうちに叫ぶその先には、ハルの声に立ち止まった人間が見える。
『ハアッ! ハアッ! あなたなのね! バードは!』
 その頃、鈴村も、肉体の限界が近付いていた。慣れない能力に振り回される体。処置したばかりの体。止血しただけの危うく致命傷となっていた体。
『はああ! 駄目だもう! 俺の体が振り回され過ぎて、もう……』
 朦朧。道の重要性を忘れ、外すフェムの道。
『ぐああ!』
 腕に当たる銃弾。眠くなりそうな意識は目を覚まし、道を再確認。転がるようにフェムの道へ戻る。フェムはすでに道ではなく、鈴村を中心に円形となり、少しずつ狭くなっている。
『がああ! あああ! くそ! 道を外さない……ように……しないと……うぅ』
 意識が薄れる鈴村。無意識の怪物の様子が見え隠れする。歪むフェム。放射状に広がり、また縮む。意識のある鈴村の許容範囲と無意識に動き回りたい「何か」との意識の奪い合い。
『ぐがぁ……! ちょっ……俺の頭……何か! がああ!! まだ! いや……もう! あああー!!』
 鈴村の意識が飛ぶ瞬間、見上げる鈴村の中の第三者。今にも唸り声を出して、想像も出来ない行動を始める瞬間だったのかもしれない。
 その日は快晴な空のはずだった。鈴村は影の下にいる。屋根のないキャンパスの中心。鈴村を影に包み込んだ理由。
『がぁ……暗い?』
 鈴村の真上に、不明機であるヘリコプターが降下してくる。そして、それは鈴村がフェムを護りきった結果である。
『がぁ!! ああ……な、なんだこれは! うわああー!!』
 意識を取り戻した鈴村は、その場から飛ぶように逃げる。すでに照準は鈴村ではない。誰にとって味方の存在か、敵か、第三の目的を持つ者か。
 警官隊はそれぞれ、突然ヘリコプターがキャンパスに現れた事に驚きを隠せない者。指導者からの警戒体制が取れる者。連続する理解を超えた出来事に立ちすくむ者。何が始まったのか、教えて欲しい者。つまり、混乱していた。
 キャンパスのど真ん中に着陸してきた不明機。遠巻きに取り囲む警官隊。プロペラが静止するよりも前に、ヘリコプターのドアが勢いよく開く。
『はっ! はあっ! はあっー!!!! アハハハハハーー!!』
 臆病になることをしらない笑みと共に、風間は大きく笑いながら機関銃を振り回し、威嚇銃撃を始める。防御体制をとる警官隊。突然の銃撃に慌て、伏せる者。狙いを定める者。優先順位は身を守る事と、指示を待つこと。
『はあ!? 何が起きた!?』
 鈴村はたじろぎながら後ずさりする。
『清正ー! ハルお嬢ちゃんの匂いが付いたものはないか!!』
『救出時に俺に抱き着いたこの服はどうだ!?』
『ルーア!! 奴の服の匂いを嗅げ!』
 風間は清正を指差し、自分の服を匂うそぶりをする。ルーアは風間の行動を察し、清正の服を執拗に匂いを嗅ぐ。
『そいつを捜せ』
 ルーアの感性。導かれる気配。独自の偶察力がハルの匂いを探る。
 盛清は逃げるように走る鈴村が目に触れる。
 遼から見るフェムはルーアの向かう先。
 清正は援護射撃をしながら風間の様子を見る
『風間……随分熱心にやってくれてるな……なぜここに下りた』
『ちょっと俺もここに急ぎの用があってなあー!』
 風間は言葉を濁し、威嚇の銃撃を激しく続ける。ヘリコプターの外に足を伸ばす盛清。
『清正、ここをたのんだぞ!』
『わ……わかりました』
 盛清はヘリを離れ校舎側に向かう。清正の援護により、警官隊も下手に手を出せない状態でいる。
 雑音に紛れず耳に触れるシャープな響き。ルーアの甲高い声が何度も聞こえる。
『さすがだルーア! 見付けたらしいなあ!』
『僕も! ハルのところに行く!』
『引っ込んでろー! 狙撃部隊が隙を見てる! 今死なれちゃ困るぞ!』
 風間の声が耳に入らない遼は、フェムの道を見極める。
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ