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セレンディピティ

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――遼……春枝を救出するという目的の中、突然出現した風間を利用し、救出の可能性を増やしおった! わ・し・の・予・想に反して……セレンディピティを理解しおったか!? 『風間さんや、わしらも行こう』
 その声に足を止める風間。風間からすれば、遼より得体の知れない老人からの提案。
『足手まといは御免だぜ。じいさん』
 当然の拒否。譲れない提案。必要なのは、簡単な理由。二度目の駆け引きは、全てを撤回する火種。軽軽な言葉は、重さを感じさせない。
『能力のことはのぅ、生まれ持ったわしらの方が良く理解しておるわぃ! それに春枝はお前を信用せんぞ? そのためには清正も必要じゃ! 知らない小娘を説得するのは君は得意かのぅ! はっはっは』
『チッ……構わねえが……そのガキは連れてくぜ! 気が変わって逃げられちゃ敵わねえ!』
 負傷した遼。負傷した清正。能力のない盛清。元々ハルの援助救出が難しい状態だった。突然の訪問者。その暴力は、味方になると、これほど心強いものかと。躊躇ない遼の快諾。
『わかりました!』
 再びヘリポートに向かう風間。後に続くルーア。予定通りなのは、遼の確保。その一連の流れの必然性に、何かの理由を感じずにはいられない風間。
――しかし、これは偶然か? 最後の目的地がこいつと同じ大学とはな……「繋がってる」のは誰だ?
『下村はここに残るんじゃ』
『は! はい! 大型のヘリにアンカーで海に落とされ、ヘリも爆破されて、もう海に飛び込むのは懲り懲りです!』
 下村は恐ろしさを体験した弱音を素直に口にして、盛清の提案を快諾すると、清正と遼が動けるように車椅子や松葉杖を用いた補助をする。
 ヘリポートに到着する風間。邪魔だった下村の乗ったヘリコプターを海へ落として着陸スペースを確保していた。エンジンを始動させながら思案する風間。
――雇い主の指定する場所に降下して……あいつらはどうする……清正は動けねえ……一旦ヘリは預け、棄てる形となるが、小娘が残っている限り奪還は可能だろう。じいさんは……自分の身は自分で護ってもらうまでだ。
『急ぐのじゃ』
 清正は盛清に車椅子で押され、遼は下村に肩を借りながら、松葉杖を用いて、風間の大型ヘリコプターに乗り込む。見送る香山と皐月と下村。香山は心構え る。どんなに強くても、混沌な世界でも、平和でも、自分達がいなければ、誰が彼等を治療すると、自分たちの必要性を噛み締める。能力は、医者だけは、持っ てはならない両刃だと、緊急事態ほどよくわかる。横に並ぶ皐月は、香山が今まで自分に伝えてきた言葉の意味が、身をもって理解出来た。
『皆さんのご帰還とご無事を祈ってます』
 ヘリコプターは上昇する。各々の抱える事情や理想と共に。自由か、平和か、責任か、未来か。
 風間の視界。船が遠くに見える。再び着陸する事になるかどうか。それもいい。そうでなくてもいい。能力の獲得は「本来の目的」に付帯しただけの副産物。最後の狙いは目的地でおきる。そのような思考。そして風間は、船に到着する前の携帯電話でのやりとりを思い出す。
     ◆◆◆
『「バード」、あんたか』
 すでに何度か会話を交わした相手。好意的ではない。固い会話は、感情を見せない意思表明。
【はい、雇い主より目的地と任務内容のお知らせです】
『約束の任務は、今日いっぱいだよな』
【はい、あと二カ所です】
『相変わらず変な偽名に「変声機」使ってまでの慎重ぶり、ご苦労様な事だ』
 固い会話。風間には物足りない。皮肉を談笑に変えられる相手でもない。秘密主義。余計な情報を与えられないバード。キャパシティー(受容力)は必要ない。不器用なほど、淡々と伝えるだけ。それが伝わるほど、余計な言葉に反応せず、要件だけを伝えてくる。
【今日待機していた船に戻り、水谷、遼を再度拉致して下さい】
 目的の計画性。再度の意味は、風間にとって失敗の意味。言い訳はしない。安い言い訳は、安い報酬。難しさは伝えたい。簡単に。
『あのガキを……また……無意識に暴れだすんじゃねえか?』
【目を覚ましたという連絡が、こちらに届きました】
 幼さを感じるバードの言葉。言葉の意味は、繋がる間者の存在。
『誰が船内で関わっているんだ?』
【それはわたしにもわかりません】
 大きな情報。付け入る隙。警戒の範囲は、船全体。
『気味の悪い話だ! 邪魔されたらそいつら殺していいのか?』
 揺さ振る会話の流れ。情報は多いほど良いと考える風間。その反応を期待する風間の想像通り、機械な声は感情を現す。
【殺してはいけません! 恐らく数名はついて来る形となるそうです】
 感じる感情は、幼い、不慣れ。付け焼き刃な連絡係。プロの口元は怪しい笑み。船全体より、近い存在。遼の近くに要るだろう、バードより上の存在。
『ついて来る? どこに』
 風間との同行を言い出す者が、自然と見えてくる間者。当たり前な思考は、罠にも感じる。賢い者ほど、はまる罠。見極める必要性の皆無。必要なのは報酬。忘れよう。
【最後の目的地です。水谷遼の通う大学に向かって下さい。詳細はメールにてお伝えします。任務完了後、残金を入金致します。その後、風間様の新しい身分証明書の作成手続き致します】
 報酬の必要性。新しい身分。充分な報酬金。風間の想像する未来。
『そこんとこよろしくな……一生傭兵なんて御免だ』
 本音を隠す必要がない相手。強く伝えたい。現状からの脱出。未来の見えない現在。戦争の臭い。駆り出される傭兵。命はひとつ。世界の風潮は、屈強な傭兵の引退へ踏み切らせる。
【全ては風間様に掛かってます。失敗は風間様の生死に関わるということです】
 だからこそ必死。瀬戸際の大きな依頼。だからこそ必要な相棒。目的は遼の拉致。能力は依頼人の渇望。
『あぁ……そうかい……わかった……』
     ◆◆◆
 思い出すように回想へふけり、その後に受信したメールを再確認する風間。
――なるほどな……降りる場所と大学の現在の状況がメールの通りなら、生死に関わるな……。
 無言のヘリの中、最初に言葉を発する遼。
『あの』
『わしか?』
『はい、この能力はいつから、どんな目的があって存在するんでしょうか』
『ん……いつから……と言う質問は難しいな。わしの先祖は、色んな言われ方をされていたらしいんじゃ。忍者とも言われとった』
 遼はあまりにも違和感のない一例に笑みを浮かべる。
『ハハハ! 納得です! この人間離れした身体能力、忍者って実在してたんですね!』
『定かじゃないわい。じゃが能力を使いこなしていれば、選択肢の一つだったじゃろ。わしは出浦家の先祖の名前、盛清を受け継ぎ、わしの名前をとって、息子のこいつは清正じゃ』
『じぁあハルは……』
『わしの先祖が季節の名前をつけるのが好きだったようでな、春のように穏やかで、子孫が枝分かれに残るようにと願いを込めて春枝とつけたかったらしい。け れどそれは随分昔の話でな、男系な一族じゃった。そのうち女のあかごに恵まれたらと……その願いがやっと春枝に届いた訳じゃ』
『春枝……ですか』
 少し苦笑いな笑みを浮かべた清正は、娘の気持ちを代弁する。
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ