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セレンディピティ

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 身動きを取らせないように、唸りながら、目を光らせるもの。それでいて、説得が不可能な相手。その威嚇の声は甲高く、立ちはだかる者を凍りつかせるほど永い威嚇。老体年齢で全盛期以上の堂(物事の習熟を究めた)に入ったチーターであるルーア。
『キャアーー!!』
 叫ぶ皐月程度では微動だにしないルーア。派手に現れた底知れない力に、清正は思うことを呟く。
『こいつは……能力者か?』
『下手に刺激せん事じゃ……まず先手は討てんじゃろ』
 ルーアは動こうとはしない。硬直状態が続く。言葉の無意味。下手に口を動かす気もおきない永い硬直状態に、近付く足音。各々の思考。期待、不安、警戒、混乱、「待望」。
『よお、待たせたかな』
『か、風間ぁぁあーー!!』
 溢れる怒り。動けない両足の負傷でも、目の前に立ちはだかりたい清正。挙動の度に殺気が増すルーア。
『おっと……動かない方がいいぜ。俺の相棒……俺を、守るからよ』
 ゆっくりと清正に近づき、風間と清正の前で腕を広げる盛清。
『何が狙いじゃ』
『誰だ? まあいい。清正、俺はこれからも傭兵生活だ……そのために俺も能力あったほうがいいだろ』
 風間を知る香山から見れば、感情の篭ってない理由。
――妙に気のない言い方だな。
――こやつ!!
 香山と盛清は風間の思考を勘繰る。目的は戦場の為か。遼の身柄確保か。この後はどうなるか。流れに任せるか。次に風間が発する言葉。それは予想を裏切らず、遼に向けられる。
『おい、お前……歩く事くらい出来るだろ。俺のところまでこい』
 遼は真っ直ぐ風間を見る。目線は風間に。しかし遼が見ているものはフェム。ずっとハルに護られてきた。死を直面した。いつもなら混乱。取り乱し、周りに言葉を求める。能力の緊張はある。だが心は幾分静か。
――フェムは風間さんに続いている……行くべきだ……けれど『お断りします』
 遼を知っている分、驚いたのは盛清と清正。なぜ、君からそんな言葉が出るのかと。想像を裏切る明らかな拒否。気になる風間の反応。当たり前な言葉が風間から零れる。
『ハッ……なんだと? ハハハ……坊や……怒らせない方がいいぜ』
『なら……僕を殺してもらって構いません。きっとまだ死期のない皆さんでも、あなたが本気で殺す気なら、簡単に終わらすことができるでしょう。 けれど……』
『動くなぁ!!』
 会話の最中、突然、病室の外からの警告。遼からの予想しなかった言葉を遮るのは、廊下から拳銃を構える、全身がびしょ濡れの下村。下村から見れば、警告通り、誰も動いていない気がした。
『やめろ!!』
 風間の声は下村に対してではない。引けた腰で拳銃を構える下村の横に、すでに口を開いたルーアが、首を噛みつける寸前の態勢。
『はぁぁっ!!』
 一瞬で消える戦意。勇気だった。普段見せない決断。非常事態の判断。その非常事態を越えた、拳銃では敵わない次元。意思か無意識か。恐怖は見えない重力。自然と腰が落ちる。風間の声に救われた下村。
『見ての通りだ……こいつの速さに勝る者はこの世にいない。死期があろうがなかろうが即死は免れねえ』
 納得のいく現実。「元」能力者達ほど理解出来る、四肢動物の脅威。力では争えない事実。
 「力」、この場での意味は能力者。「能力」、その根源の意味は偶察力。
『そうですね……ただあなたは、僕に死なれても都合悪いですよね』
 力を行使する挑発まではいかない。有無も言わず連れ去るまで踏み込めない。「大人げない」事に踏み込めない、絶妙な空気感。それは逆にカンに障る場合もある。
『このガキが……駆け引きに乗るとでも……』
 言葉を間違えるなと、そこまで言うならと、力で抑える理由がいる、言えないバランス。風間の口から出た言葉。同じ土俵にいると認めた言葉。それは「駆け引き」という言葉。
『誤解しないで下さい! 僕はこの能力が欲しいと思いません。すぐに差し上げたいです……ただ……まだ僕のやり残した事が終わってません』
 理由を聞く必要があるのか。理由次第で目的が変わるものか。だが、無視出来るか。同じ土俵。それは認めている。野暮な行動は、心の筋肉が弱る。器の見せ 所なのか、風間は気付かなかった。自分が遼の言葉に耳を傾ける、「聞く姿勢」が出来てしまった事に。会話の成立。それなら返す。自然に、普通に。
『なんだ』
 聞く姿勢の完成。心へ届かすアプローチから、プレゼンテーション。重ねる言葉は幸福への階段か、ただの戯れ事か。
『昨日……僕は二人の警官とやり合い、負傷させました……その一人が僕に遭うため、僕が通う大学で、なぜか人質をとり、立て篭もったようです……その尻拭 いにハルという女性が向かいました。状況はわかりません。僕が助けに行っても役に立たないでしょう……けれどあなたなら、治めることは、きっと造作もない 事ですよね』
 核心が見える。狙いがわかった。余計な労働。余計な手間。ここまで引き延ばした会話の果てに、楽しめる戦場を連想させて、良い条件があれば話に乗りたい。理由次第で。可能性は薄い。言葉を投げ合う魅力的な味は、早過ぎる賞味期限。
『そんな面倒な事に俺が付き合うとでも思ったか?』
 味は薄くなった。味わう事が面倒臭い。もう終わり。わかったはずだ。俺が動く理由にならないと。それは風間の思考。そして、用事を終わらそうとする間際。
『僕が昏睡の最中、能力の移動があったと聞きました。昏睡のような仮死状態なら能力の移動は可能という事です! あなたは死期を無理矢理作らなくても、一時的に薬などで仮死状態を作れば手に入るでしょう』
 終わりに見えた、言葉の魅力。目的の安全性。風間の安全。一方的でない取引。安全な目的の為に労働。万全じゃない隙がある。
『俺の仮死中に何かされちゃあたまんねえぜ』
 想像できる風間の思考。自分の仮死状態。無意識の中、起きる保障がない。約束を守る絆がない。信用がない。こいつの性格はわからない。いつもこうなら危険。手練手管はお手の物か。怪しさが増す。断ろう。普通に、力で、相棒で。
『あなたの相棒がそうはさせないでしょう……僕は今……あなたに遭えて幸運です』
 保障が出来た。確実な。力の利用方法は、風間の番人。本来の役目。自分に遭えた幸運。誉められた暴挙。目的(ハル)と安全(相棒)と保障(能力)。自然な笑みは、幸福な道標の完成。
『は……! はっはっはっはぁ! こりゃあいい! 気に入ったぜ!! いいだろう! 香山さんよ! 帰るまでに準備しといてくれ』
『わきゃっとぁ!(わかった)』
 包帯の上でもわかる香山の笑顔。暴力のない空間で、話し合いだけで硬直から脱した空間。ヘリポートに向かおうとする風間に後ろからついていくルーア。風間の背中から聞こえる声援。
『風間さん。ご無事に帰還されて下さい』
 口角を上げて笑みをだす風間。皐月に無事を祈られる暴漢者。雰囲気が変わる。息を意識して吸える解放。味方になった敵。誰もが想像出来なかった展開。遼 を今までと同じ目で見られなくなった盛清。出来事で、人が成長する瞬間。重ねた恐怖。重ねた痛み。重ねた弱さ。重ねた勇気。思いつきでは辿り着けない成 長。
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ