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セレンディピティ

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『あれはね……話が複雑で……』
『近寄らないで!!』
 陽菜はハルから後ずさり少しずつ距離を空ける。更に険しくなる陽菜の表情。鼻の横のほうれい線は深く釣り上がった表情筋。怒りに任せて今にも手前に引きそうな人差し指。
 銃声が轟く。拳銃を握る陽菜は目を強くつむっている。ハルはうずくまり、事態を理解しようとする。
『学食!?』
 陽菜は挙動不審になりそうに、ハルと学食の方向を交互に首を振ると、銃声の方向からざわめきが響いている様子を感じ、目を数秒つむって耳を澄ますと、手から重さが消えた。
『え!?』
『おもちゃじゃないから返してもらうね』
 陽菜は一瞬で目の前に現れたハルに拳銃を奪われる。その常人と感じられない行動の早さに、遼への繋がりを強く感じる。何か言葉をぶつけたい気分でもあったが、先に行動を始めたハルの言葉に、一旦自分の感情を静めた。
『ここを動かないで!!』
 座り込む陽菜に背を向けて学食に向かうハル。講義室の扉を開けた瞬間に、恐怖から遠ざかる学生たちが目の前を横切り、我先に掛け走る。
『ウァァァァ!!』
 逃げ惑うような声が響く。
『キャアアアア!!』
 学食から飛び出す血眼な男女。余裕を感じられない狂気からの逃亡。その空間以外なら全てが幸福に感じる見えない幸運路への猪突猛進。飛び出す学生の後ろから発砲している。
『キャアァ!!』
 ハルはその中暴動に紛れて中に入る。
『くそぉ!! 逃げるなって言ったのに!! 何でこんなことに……ああああー!! 水谷!! チクショー!!』
 遼を呼びながら大人気ない怒りを口々に出す。止まらなくなりそうな引き金を強制的に抑制するため、拳銃をコートに隠し、周りを見回しながら苛立つ鈴村。
 ハルは周りの学生と逆方向の混雑に混じり、低くかがみ、横を向いている鈴村の隙をついて適当な椅子に座りながらしばらく様子を見る。入口から遠く、逃げきれない場所にたたずんでいた学生たちと共に。

 ヘリコプターを飛ばす風間。青々と茂る山々の上空を飛行する。
『やっと着いたな』
 目的地と思われる地点近くに到着して、ヘリコプターを降下する。深い山脈の森林飛行中に、確認した方位を頼りに、風間は森林の中に入り始める。誰にも邪魔をされない場所。挙動を気にすることなく凛としたたたずまいで、清正の言葉を思い出す。
――フェムか……。
 風間は目をつむり深呼吸をする。落ち着いて周りを見渡す。
『なんだ……このラインは……』
 口に出してしまうほど、初めて観る光景。清正の言葉がなければ本来は先にくる混乱。様々なフェムの形に戸惑う風間だが、能力者特有なものだと、納得が安易な予備知識があるため、余裕を取り戻し、見定める。
――良し悪しがあるのか?
 その数あるラインの中、風間は本来の目的地と違う方位である、ギザギザする細い道を進む。
『ハァ……ハァ。体が重いな。なんだあ? この緊張と吐き気は』
 不快な気分で足場の悪い山道で疑問を口走りながら歩き続けると、視覚より先に聴こえてくる音。
――水の音。……滝か!
 間もなく目でも確認出来る音。その直前、確認する間もなく、風間本来の感覚で感じる別の気配。すでに理解した気配は、万人に認識出来る恐怖の唸り。い ち、に、さん、と、そのうち確認する事を諦める数の野犬が現れる。拳銃を構え警戒する風間。実践経験からくる落ち着きか、丁寧に間合いと距離感をつかむ。
――これは……なるほど、不正解……道によって運命が変わる訳か。
 風間は気づく、冷静になればなるほど、再び見えるフェムのライン。慎重に、わかりやすい一番太く滑らかな道を歩く。野犬にとって間合いの外。野犬はその絶妙な位置に、野犬は一定の距離を保ち、襲って来ない。
『これじゃわかんねえな……』
 響く銃声。無差別に狙われ、もがき、痙攣に陥る野犬。同胞への攻撃は、逃げるか攻めるかに分かれた、襲い掛かる野生の形相。拳銃は風間にとって威嚇。自分以下と思える相手には頼らない意味の美学か、拳を構える。
――ほお……野犬の体中にフェムが見える……正解ははっきりした波か。
 狂気の牙に臆さない的確な攻めと反応に、堕ちる野生のプライド。自分以上と判断した野生の勘は逃亡の選択。
『あっはっは便利なもんだ! 教えて貰うまでもなく急所ばかりだがなぁ』――つまり、道が滑らかなで広い道を選べば、悪い事が起こらない訳かぁ……田村が見たかった世界だな……生きるための最良の道なら、長寿の道にも続くかもな。
 野犬は気配を消し、滝の音に背中にすると、風間は本来の目的地に向かう。目的を優先して進める足元には、どの道よりも太くきらめくライン。
――目的地が最良の道とはな! これが俺の生き方なわけか! まぁ戻っても俺にとって何もいいことはないかもな……思ったより時間をくってる! 少し急ぐか。
 風間走りながら感じる能力の特性。それは一時期の興奮を生む。
『なんだこの溢れるような力は!? ハハハ! これはいい! だが俺の欲しい力じゃない! 必要なのは頼りになる、相棒だ!!』
 森林深く獣道を迷いなく走り抜ける、風間の視界に開いた空間。獣道から人の道。開けた道の先にそびえるペンション。
 電線の届いていない建物に自家発電と思われる室内の照明。風間は特定の周波数に合わせたトランシーバーを用い、何度も呼び掛ける。それは相手にとって、特定が簡単な周波数だったのか、誰とも確認することなく、名前を口にする。
【「田崎タサキ」です! 風間さんですか?】
『あぁ……』
【帰国中に寄ると連絡あった時は、来るのは明日かと思ってました! 要件は「ルーア」ですよね?】
『予定が変わってな……まだ元気かい』
【そうでもないですね……もう12歳ですし普通は寿命が近い歳ですね……今ペンションに近いですか?】
『今ペンション前に来てる。ルーアに会えるか?』
【わかりました! すぐ出ます!】
 田崎は窓から風間を確認すると、すぐに玄関から南京錠の鍵の束を片手に、風間へ近付く。
『お久しぶりです!』
『ああ、久しぶり……俺に近づき過ぎないでくれ……最近変な菌に感染したかもしれん』
『あ! そうなんですか……私が引退した理由の一つでもあります……失礼ですがマスクを着用させていただきます』
『あぁスマン……案内してくれるか』
 普段から備えているような包装されたマスクをポシェットから取り出し装着する昔の傭兵仲間。引退の理由は様々。戦地から無事に帰る度に、戦場に二度と踏 み入れない仲間。周りの傭兵仲間へ次々に続発する感染の恐怖が引退の理由だった田崎。第二の人生は人里から離れ孤独を愛する選択。
 一定の距離を保ちながら、田崎から主に話す昔ばなしと案内により山道を進むと、大きな山小屋が見える。
『ルーアが馴染んだ人は風間さんだけですね』
『そうか……あいつは俺の行動を察するのが早かった』
 山小屋の南京錠を開錠する田崎。
『たまには外に出してるのか?』
『体調が悪くて動こうとしないですね』
 山小屋の中からは、何頭もの犬や猛獣と想像出来そうな、高い鳴き声に太い鳴き声。
『この中で死にそうな奴はいるか』
『ルーアくらいですね……ただ菌があるのなら入るのは……』
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ