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セレンディピティ

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 風間は消音装置を外し、軽くドアを開けた隙間から、空に向かって威嚇発砲する。隊員は皆警戒し、身を低く屈める。
『俺はもうここに用がない!! 殺す気でこないと返り討ちに遭うぞ! ハハハハハハハハハ!!』
 威嚇発砲を何度も繰り返し、甲高く笑う風間。風間はゆっくり上昇し、目的地にヘリコプターを飛ばす。
『あははははー! 新しい相棒! 待ってろよ!』
 隊員達はまさかの事態に騒ぎはじめる。興奮し騒ぎ立てる者。緊張が隠しきれない者。盛清は清正の状態を確認した隊員より理解する。そして基地内の幹部に伝える。
『奴は……追うな! 身内の話だ! これ以上の騒ぎは無駄な被害者と収拾のつかない話となる!! 演習の扱いとするんじゃ!!』
 高い技術の医者として、官僚に関わりの強い盛清の発言と、それらを世間に弁明する事態の拡大を治めるため、基地内で事が無かった形となる。
 隊員と共に清正へ近づく盛清。その力ない姿に、想像以上の屈辱を感じる。
『清正……』
 ポールを握り肩を落とし、うなだれる清正。近寄りがたい隊員たち。近寄れる者は盛清のみ。そこで掛けられる言葉は、本心のみだった。
『お前が生きてて本当に良かった……』
『はあぁ……父さん……すまなぃ……奴の挑発に……本当に……すまなぃ……ううぅ』
 悔し涙を流す清正の頭を、子供のように撫でる盛清。両足に戒められた銃痕の痛々しさ。それでも盛清には、優先するべきものがあった。盛清に言われて隊員が用意していた救急用具。
『清正……ここで処置をして、すぐ向かうぞ』
 その頃、事態を知らないハル。バイクで鈴村が立て篭っている立明大学に向かう。
『叱られちゃうんだろうなぁ……』
 医療室に連れて行くことなく、盛清は清正をその場で弾丸を取り出し、応急処置をして隊員に指示をする。
『さっき清正を乗せた操縦士を呼ぶんじゃ!! ヘリの準備を頼む!』
 遼は昏睡を続ける。世間の雑音を遮断した魂の空間。
――僕は周りより大きく……雄大で……静かで……退屈な大木……僕の願いは……この見える世界と……違う世界を見ること……特別な……能力で。

 立明大学に到着するハル。その入口はテレビの取材者やそれを近づけまいとする警官隊で包囲されていた。
『包囲されてるなぁ……どうやって入ろう……』
 校舎を眺める。長くそびえる校舎の隣。屋上の高さに近いビルが目に留まる。バイクを路地に止め、そのビルに向かい、外階段から屋上に昇る。
――いいね……ちょうど校舎に届きそう。
 助走をつけられる距離まで下がる。飛び越える不安はない。あるとすれば負傷した手首への衝撃。
『フェムの道は広くて綺麗な波!! ハァァァァ!』
 充分な助走と能力の導きで余裕をもって校舎に届き、衝撃を分散させるため、手首をかばいながら体の所々を受身としての五点着地する。
――さて、どこかしら……学生が集まる場所……食堂かな。
 屋上から階段を静かに降りていくと、階段にある校舎内の案内図。現在地から学食までの経路を探す。想像通り、校舎内にはひと気がない。
――どうして鈴村は大学に? 捕まるのは目に見えてる。逆上? 遼も指名手配で今は海の上。
 学食にゆっくり近付く。自分の影と姿が悟られないように辺りを見回すと、学食を中心に、別の校舎の教室や屋上から、狙撃部隊が見える。見付かると面倒と思い、一呼吸おき、フェムの様子を探る。
――学食に向いてないね! まだ行くべきじゃないのかも。こっちの校舎か。
 フェムの道を外れないように慎重に歩く。その先に見える扉。それは広い講義室。講義室のドアをゆっくり開け、中を覗く。
『何があるの……』
『キャア!』
『静かに! 落ち着いて! 犯人は学食よ』
 ドアの音と同時に声を上げる学生。生徒が並ぶ座席を固定させた横並びの机に隠れる女性。ハルの言葉に少しずつ顔を上げる女性は、遼から恐怖により逃げ出した加藤陽菜である。
『あなた……誰?』
 陽菜は持っていた携帯電話をデニムにしまい、ゆっくりと上目遣いでハルを見ながら尋ねる。ハルは安心させるため、怖くないと思われそうな表情を浮かべて言葉を交わす。
『私はハル……えと、外に逃げ遅れちゃって……ずっとここに隠れてたの? それと犯人って、警察関係者って聞いたけど』
 逃げ遅れたというありそうで簡単な嘘に、陽菜は安心したか、自分の状況を話し出す。
『はい……あの犯人……刑事です。突然目の前に現れて……私……顔の傷と血に驚いて叫んでしまって……』
『あなたが叫んだ事で、人が集まったのね』
 微かにうなずく陽菜。するとハルも聞いていない内容をゆっくりだが自分から語りだす。
『私……あの刑事のニュース……知らなくて……周りの人が犯人とか指名手配とか言い出して……囲まれたと思ったら、いきなり発砲して……私……怖くてすぐ逃げて……』
『鈴村は何を聞きにきたの?』
『多分……遼って言う私の知り合いの事。あいつは……』
『遼は……昨日いろんな事故に巻き込まれたんだよ』
 言葉を言い切って、自分が余計なことを言ってしまったと感じる表情を浮かべるハル。陽菜が遼の知り合い程度の繋がりと思った雑談のつもりだったが、遼の名前をハルから聞いて表情が険しくな陽菜があった。
『え!! 遼の事知ってるんですか!? 遼は今どこに!?』
 意外な食いつきに少し戸惑うハル。どのくらいの繋がりの関係なのか、嫉妬なのか、友情なのか。それでも険しい顔は愛情には感じなかった。
『今、遼は……重傷負って、どこかで治療してるわ』
『どこ!! 教えて!』
『それは……ごめん』
 逃げ出したい気分になったハル。フェムに導かれて陽菜と接触したことに、どのような運命を感じていいのか悩む。
『ハルさんは遼とどういう関係なんですか!? 彼女ですか!?』
 更に言葉に悩むハル。目の前の女性が事情を知らなくて、自分が知っているような関係。言葉につまりながらも、ハルは少し面倒くさそうに言う。
『そ、そうょ! だ! だからあいつを庇う立場ってことで!』
『そ! それじゃ、昨日の事件……』
『それより鈴村をなんとかしないとだから……あなたは隠れてて』
 陽菜も言葉をつまらせて、遼とハルの関係性からくる繋がりと昨日の狂気な遼を整理する。ハルはこれ以上の話は鈴村追跡に支障を感じて、素早く振り向く。陽菜はハルの腰に挿してある拳銃に気付き、所持する意味と遼への黒い感情が沸き上がる。
『やっぱり!! ゆ……許せない……』
『えっ?』
 真後ろで聴こえる陽菜の低い声。振り向いた時にはすでに、陽菜は拳銃をハルの腰から奪い、それをハルに向ける。
『なにを!?』
『あんたも遼も人殺しよ!! 達哉を殺したわね!!』
 陽菜の結論。整理した思考の答え。ハルは少し混乱しながらも、ゆっくり手を挙げて、なだめようとする。
『ちょっとぉ……勘違いしないで』
 近寄ろうとするハルに、陽菜はあわてて手元を危なげに探りながら、引き金を引く。
『私の目の前で刑事を殺しといて勘違いはないでしょ!!』
『あ、あなた』
 ハルは気付く。遼と刑事の出来事にこの学生は立ち会っているのだと。そこから繋がる交友関係。遼の目の前で死んだ達哉。その達哉を想う女性だと。
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ