小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

セレンディピティ

INDEX|19ページ/43ページ|

次のページ前のページ
 

『おいおい。こんなとこで残酷ショーする気か? はは、まあ待て』
 腕を払い、歩き始める風間。間合いを見計らいながらついて来る清正。
――罠だ!
 清正に緊張が走る。本来狙われていた清正。自分が会話に乗らないと狙われるハル。明らかにわかる災い。それだけ、躊躇する。
――フェムの流れが最悪だ! 行くべきではない。『お前……俺を殺す気か!?』
『俺は一生傭兵だぜ? 常に殺気立って何が悪い……必要なら叶えてやるよ! ハハハ!』
 ごまかされた気もする清正だが、真意の方が気になり、いつでも風間の致命傷となるフェムの流れを眺める。風間は周りを見渡す。敷地内は厳重な警戒をされている。監視カメラや、トレードマークの旗などのポールが幾つも立っている。
『この辺か』
『何が狙いだ!』
『ハッハ……あんた……真面目すぎるよ……まあいい。俺はこれからあんたの娘を狙っていくぜえ? あいつには逃げられたからな』
 適当に話を繋げる風間。盛清から船の問題を深く聞いていれば更に察することのできる虚言。けれど、風間にとっては、言葉は重要ではなかった。
『お前はあの男を売れば済む話だろ!!』
『数は多い方がいい。俺の自由だ』
『なら……今俺がお前を黙らせるのも自由だな!!』
『ああ……そうだな』
 風間は基地内の旗を掲げるポールに触れながら、清正を挑発する。清正は風間の体にはびこるフェムを見極める。
――おかしい……体の隙は沢山ある。しかし風間までの道が最悪だ。
『娘……割といい女になりそうだなぁ! アハハハハ!!』
『風間ーー!!!!』
 風間は会話の最中、眺めていた。清正が抑えられない挑発の種類を。一番効果的に感じたハルを天秤にした挑発。
 清正は、口を閉ざしたい一心で、風間に向かい突進する。
――田村……お前がやりたかったのは、こうだろ?
 ポールの後ろに立つ風間。それは遼を相手にした田村と同じ行動。
『があああああ!!』
――田村……右にくるぞ。だけどお前はポールに近付き過ぎた……。
 ポールにより手が届かない清正は、ポールを中心に勢いのまま風間に向かって回り込む。
『そう……田村がやりたかったのはこうなんだよ!!』
 風間も清正と同様の軌道でポールを中心に左に回り込む。
『があああああ!』
 清正の片手が出る。
『こうだよな!! 田村ー!!』
 清正からすれば、自分と違う名前を発することの意味がわからない。余計な思考は、清正の行動をほんの少し鈍らせるには十分だった。風間の思惑通り、田村が能力者相手にやりたかった理想通り。清正の片手に手錠が掛けられた。
『そしてこうだ!!』
 手錠をポールに掛けると、風間はポールから飛ぶように離れる。
『はっ!!!!』
『あぁ……そうだなぁ田村ー!! すぐに足とめなきゃなぁー!!』
 消音装置を付けた拳銃。脅しで使うような様子ではない風間。それは躊躇がなかった。風間は笑顔のまま発砲する。何度も、何度も。
『ぐあぁ!! がああぁぁぁぁ!!』
 風間は清正の足に六発の銃弾を撃ち込む。それは警戒する必要以上の数。田村と能力者の戦いを目に焼き付けた為か、立ち上がるという可能性を絶ち、確実な安心感を得る為の非情な心を鉛で表現する。
『動けねぇだろ……お前、今、俺を殺したくてしょうがないだろ? ここまでは田村の弔いだ。そしてここからが俺の用事だ』
 風間はもう一つ手錠を取り出し、後ろに回り込み、素早く清正の自由な片手に掛ける。同様にポールに手錠を掛け、清正はポールに向いている状態となった。痛みと遺憾が脳と体を占領した清正の背中に、自分の背中を合わせる風間。
『う……うぅ……うあああああああー!!!!』
『お前の殺気からくる俺の死期が逃げてなくてよかった……まあ、力抜けなきゃ自分の腕吹っ飛ばすところだったよ。どうだ? 力が抜ける気分は……お前は真面目過ぎた』
 膝をつき、両手をポールに繋がれた言葉を失う清正の背中にある残酷な温もり。接近に必要な時間も定かではないため確認をするためにも風間は立ち上がり、少し距離を空ける。
『手錠を壊す力も、ポールを曲げる力も、もうないだろ』
『目的は果たしただろ!! 俺を殺すなら好きにしろ!! だが!! 娘は見逃せ!!』
『このことを娘が知ったらどうなる? きっと向こうから会いにくるぜ? 俺からは行かねえ事は約束出来るが、この能力の事は話して貰うぜ……実際、実感が湧かねえ』
『く……』
 言葉を噛む清正。ハルを巻き込みたくない気持ち。風間への信憑性の少なさ。能力を使いこなされる危機。無言でいることが最善か。それでも脅される材料がありすぎる現状に言葉がでない。
『おいおい!! だんまりは無しだぜ……どうせ山篭もり修行でもすれば解ってくるんだからよ! ははは!!』
 時間の問題。少しでも隙を感じたい。清正は、能力の反射神経と清正自身の反射神経の戦いに挑む。
『フェ……フェムと言う……光って見えるラインがある……見えるか?』
『フェム?』
『目をつぶって見ろ……集中すれば見えてくる……』
 目をつぶる風間。その隙を狙い、痛みを忘れて一瞬立ち上がった瞬間、ポールになるべく近づき、腰から抜いた拳銃を素早く発砲する清正。
『うおおお!?』
 風間の体はすでに低くかがんでいる。それは風間にとっても予期しなかった動き。清正の判断は成功するはずだった。万が一、能力が移動していなかった場合。
 風間の意図しない態勢から、最短に反撃できる踏み込みで、清正に反撃しようとする。
『お!! ぉおっとお!! 止まれ!! 止まれ!! 俺の体よー!!』
 風間は自分の意思で暴走しようとする自分の体を止める。更に止まらない体は風間の意思。拳銃の標準を合わされる前に、素早く清正の拳銃を蹴る。
『くっ!!』
『あっはっはぁ!! 残念だったなあ! けど少し理解したぜえ。可能な限り回避防御最強だなあ』
『それ以上は……自分で考えるんだな』
『あ?』
 清正にはもうひとつの狙いがあった。響いた拳銃の音の広がり。それは取扱いに慣れている基地の隊員の一人にでも耳に入れば、すぐに異常事態だと判断できる。警報が鳴り響く。
『あ~ぁ。さっきの発砲で警戒し始めたな……まあ、今更だがお前に恨みはない。あのガキに相棒の田村を殺されてな……能力の根絶やしには賛成だ。人を喰うのは人間じゃねえ! ってな! ハハハ! じゃあな』
 風間は用事が済んだ意思表示のように、手錠の鍵を自分の足元に落とし、ヘリコプターに走る。
 警報が耳に入り、清正の安否が気になる盛清。警報の理由を隊員に確認する。
『はい! 発砲が敷地内で起こったようです!』
『清正! おい!! すまんが、ここにある救急用具を持ってきてくれ!!』
 盛清は、すでに異常事態を感じていると思う、ハルのいる医務室に向かう。
『ハル!?』
 すでにハルは居ない。ベッドの温もりを確認する盛清。
『随分冷えとるな……警報より前に消えとる……まさか!』
 ヘリコプターのエンジンを掛ける風間。上昇するまでに時間が掛かる。そのわずかな時間にヘリコプターへ近づく隊員たちの姿が目立ってきた。
『おいおい、ワラワラ人が集まって来やがったな』
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ