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セレンディピティ

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 隊員が頭を下げて廊下の先に消えるところまで見届けると、盛清は状況を察して清正に尋ねる。
『船の居場所を知らせない為かい?』
『はい……それに後々わだかまりを残すのも良くないので行ってきます』
『清正、わしらの事を知っとるのは何人だ』
『確実には……二人です。すぐ対処します』
 清正は盛清に背中を向け立ち去る。盛清はすぐに医務室へと戻った。まだハルは眠っている。盛清はハルの頭を優しく撫でる。撫でられることで微妙に浮かべ る笑み。その表情を優しく眺める盛清は起きないように手を離し、振り返ると同時に顔つきを変え、歩き出す先にある事務室。深い息をつき頭に浮かんだ人物電 話を掛ける。その電話はすぐに繋がったが、違う人物が電話に出た。
【はい……】
『香山の娘かい?』
【盛清さんですか! ご無沙汰してます!】
『前に香山から番号聞いてたんじゃ! 兵隊相手の船舶船医を専門でしとると聞いたが』
【はぃ……】
 電話に出た皐月。直前までの凄惨な出来事への悲壮感を表した声。事情があっての声質と感じる盛清。そして香山の事を当たり前のように尋ねる。
『香山はいるかの』
【今……調子が悪くて……すいません……伝言があれば】
『若い怪我人今朝来たじゃろ』
 返答に悩む皐月。一先ずは守秘義務を優先させる。
【いえ、特にそうい……】
『隠さんでも大丈夫じゃ! 彼はもう目を覚ましたかな』
【すいません……これ以上は……】
『ああ、立場はわかる。彼が……いや……香山の調子戻ったら、連絡欲しいと伝えてくれるかい』
【あの……あ! 今香山が隣に来まして、話すのが難しい状態なので、私が間に入って伝えますが】
『一言香山の声が聞きたいが……』
 皐月は香山に伝える。香山に事情を伝える声が微かに聞こえるが、盛清が知っている口数の少なくない香山からはその相槌がないことに、どのような返事が返ってくるかひと時待つ。
【ごびゅしゃてゃしとぇましゅ!(ご無沙汰しております)】
『わ、わかった! 出させてすまなかった。娘さんに代わってくれ』
 明らかな会話が困難な状態。理解した事情。
【はぃ……】
『何か奇怪な力持った青年と聞くが、その影響かぃ?』
【は……はい】
『そうなら、そんな危険な力はずっと眠らせた方が良いぞ』
 盛清の質問をそのまま香山に伝える皐月。皐月の耳元に細く話す香山。時間を掛けた会話が続く。
【そんな情報を、どこから聞いたのでしょうか】
『傭兵の一人くらい、連絡できる者がおるんじゃ。帰国したがの』
【盛清さんなら不思議はないですね……ただ、私どもは、仲間の元に帰そうと考えております】
『そうか、同じ力を持った仲間がいるのじゃな? それがええかもしれんな』
【はい、仲間なら環境の適応方法は熟知しているかと思いまして】
『仲間と接触するの難しいじゃろ。わしが調べようかい?』
【心遣い感謝しております。ただ私共も一人あてが有りまして、後ほど確認しようと考えております】
『そうか。それは良かった。名前はわかるんかの?』
【たしか……清正と……】
 繋がる道標。伝わった情報。盛清の判断は面倒を避ける虚言。
『ほぅ……わしに似て古風で素敵な名前じゃな~。聞いたことないがそいつと連絡取れるんじゃな』
【船にいた傭兵が去ってしまいまして、香山は傭兵から連絡先を聞いていたので、その者に連絡してみようと考えてました】
『ほぅ……探してた力を置いて去ったとは』
【はぃ……色々ありまして、彼はずっと昏睡してますので、静かに治療を続けていく次第です】
『そうか……どんな力かよくわからんが気をつけてな』
【はい! ありがとうございます】
『ではまた』
 盛清は電話を切ると医務室へ戻る。ドアを開けると、思っていたより早くハルは目覚めていた。
『おぉ春枝! 目が覚めたか』
『おじいちゃんの尻拭いは私の番よ』
 一瞬、電話でも聞かれていたのではないかと考えたが、そのハルの目はテレビからの情報からのものであった。ハルと盛清はテレビニュースを静かに眺める。
【なお犯人は依然立て篭もり、立明大学の学生を人質に……】
『鈴村か?』
『一発発砲があったみたい。時間のタイミングと距離的に間違いないわ! ここは遼の通う大学よね』
『春枝が動く事はないそれなら清正に』
 言葉を遮るハル。
『助けられた借りをつくりっぱなしは嫌なの! パパが? パパはどう見ても教授や学生のガタイじゃないわ!! 私なら学生で通るわ』
『いや駄目じゃ! 普通でも全治半年じゃ! 行かせはせん!』
 説得の応戦が繰り広げられると想像した最中、言葉を止める理由となる、ドアをノックする音。
『はい』
『失礼します! ヘリコプターで敷地内に着陸要請があります。風間と言う男が清正さんを呼ぶように叫んでまして、こちらかと思いまして』
『風間……わかった! わしから清正に伝えておく。許可してええよ。こちらも彼に用事がある』
 隊員は一礼をして去り、騒がしくなった周辺の事情により説得をしきれないハルは膨れっ面でいる。
『気持ちはわかるが……ここはわしを助けると思って落ち着いてもらいたい』
『はい……』
『じゃあ清正のところに行ってくるからの。今は寝ていなさい』
 納得しきれていないハル。その納得を払拭しきれていないハルの表情を尻目に、盛清は医務室を出て清正の元に向かう。
 操縦士が気絶していた部屋は一つ下の階層の部屋。仮眠室程度の部屋で安静にしていた操縦士がいる部屋で、清正は操縦士と話が終わり、ちょうど部屋から出てきたところだった。
『清正』
『父さん……どうかしましたか』
『ああ、いくつかあるんじゃ。ざっと言うぞ。まず船で問題起きた。その事は落ち着いて、その船の医師をしとるわしの旧友の香山がお前連絡しようとしとる。風間から携帯番号を聞いたらしいわい。そして風間は船からすでに去った。その風間は今ここに来とる』
『なんとなくわかりました……その、香山は何故?』
『遼を仲間の元に返したがっとる。そしてわしはお前の事は知らないと伝えた。どうじゃ……対処出来るか?』
『対処します。風間はヘリできたんですか?』
『そうじゃ。よろしくたのむ』
 清正は、通常ヘリコプターで侵入した者が待機する、風間の待つ所に向かい始める。
 約束通りに事を進ませた清正。それでも訪れてくる風間。どんな問題が起きたかを想像する清正。傭兵との取引に約束はあるようで無いように感じながらも、問答で解決できることを考えながらも風間の元へ向かう。
 ヘリコプターのそばでタバコを吸いながら待つ風間。
『おう清正! また会ったな』
『どういうつもりだ! 約束は果たしたぞ!』
『あぁ……そのつもりだったがな……まぁ、俺は敵にするなら動物より人間の方が扱いやすいや』
 想像できる展開と内容。扱いきれなかった能力者。その結果の精算。そのような言葉を匂わせる風間。それもわかった上で、あえて詳細を探ろうとする清正。
『どういう事だ』
『あっちで話そうぜ』
 死角となる建物の陰へ誘う風間。わかりやすい考え。それだけ感じる自信。
『ここで話せ!!』
『いいのか? 娘に付きまとうぜ』
 清正は風間の胸倉を掴む。動じない風間は余裕を感じさせる顔つきで、タバコの煙を浴びせる。
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ