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セレンディピティ

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 跳ねるように距離を空け、皐月に振り返り身構える風間。いつでも襲える余裕なのか、攻撃が出来なかったのか。皐月が襲ってこない理由は、ひとつの違和感に繋がる。傭兵である者からすれば、先手こそが最良に感じる。短銃を握りながら、それでもギリギリまで考えたい刹那。
『チッ! 機関銃でもあれば!』
『大丈夫です……』
 田村はゆっくり立ち上がり、とても無防備に、体に力が入らないのか、入れてないのか区別がつかないほど、自然体で皐月に近付く。
『皐月に……戦闘技術がありますか? 多分無意識の攻撃は、こちらが先手の場合です』
『じゃあ、今までの能力者は!』
『はい……仕掛けたのは全部こちらです。逆に見てみたい……ユックリ近付くものに、どう攻撃するのか……』
 能力に身を任せていた皐月は、頭で考え、焦り始める。自分の意思で、想像を超える力が発揮出来るのか。来るものに自然と対応させればよいか。駆け引きは、田村の偶察力が上回った。
『やぁ!』
 攻撃の方法が思いつかない皐月。何をどうして良いのかわからない焦り。平手打ちを浴びせようとする皐月の攻撃に田村はユックリと避ける。
『風間さん……こういうことです』
『ヒィッ!』
 混乱する皐月。逃げようとする振り返り。「道が見えない」皐月の迷走ですら許さない空間。
『おっと』
 入口を塞ぐ風間。攻撃するわけでもなく、近づこうとするわけでもなく、ただ、道を塞ぐ。最良の無策の策で皐月を包囲する戦闘の慣れ。
『チェックメイトですね』
 最後の間合いに踏み入れようと近付く田村。
『は!!』
 反射神経で床に伏せる風間。その気配は、戦場で何度も感じた殺気。金属を操ろうとする気配に待つものは、大抵が瞬殺する意思だった。
『さちゅきぃ! 逃げぇろぅぉ!!』
 発する言葉の間、機関銃で威嚇連発をする香山。香山の顎は、完全に曲がり、歪み、裂かれ、口に溜まった血を吐き出していた。
『お父さん!!』
 香山の横をすりぬけ、二人から遠ざかるため、どこへともなく走り出す皐月。
『香山さん!! 皐月は船の人間殺すつもりだぜ!?』
『さちゅきぃは娘だぁ! おるぇはまもるぅ!』
 親子の絆に説得は通じない判断。風間は素早く機関銃の先端を上にすくい上げ、簡単に奪い取る。鮮やかに奪われすぎた瞬間は、空気を握り込む香山。風間を 通さないために壁となるか、体当たりを試すか、そのような思考が追いつくかどうかの瞬間、機関銃で香山の腹を、重く殴る。
『香山さん……気持ちはわかるよ。だから寝ててくれ』
『うぐぅっ!』
 戦闘不能な香山。気を失うほどの衝撃に床へ砕け倒れる。そのまま意識を失っていることを確認すると、狩りの始まりを伝える。
『いくぞ田村!』
 戸惑い逃げ回る皐月を追い掛ける風間と田村。単純に追いかけるか、回り込むか、協力者へと戻った田村へ尋ねる。
『挟むか?』
『いえ策は必要ないと思います……はぁ……はぁ……離れない方がいいでしょう。追い詰めましょう!』
 自分を取り戻し、冷静に判断する田村。道の分岐が多い船内、音の反響する空間。気配と足音で追う二人。
『どっちだ!?』
 道の分岐になるたびに、一旦立ち止まり耳を澄ます二人。少し静かに耳を傾ければ急ぎ足の歩幅に勢いあるドアの開閉する音が響く。単純な気配を頼りに選択 肢なく向かう二人。何度かの分岐を、気配を読むのに慣れた二人は、今船内を駆け回る可能性ある人物は皐月以外は考えられないことを想像して、わかりやすい 気配を追い続ける。
 近づく足音。角ひとつの距離。立ち止まることは必要と感じなくなった二人は、勢いを増し、間もなく眼前にいるであろう狩りの標的を、待ち伏せする危険なども考える必要はないとして追い続けると、角を曲がったと見える皐月の影が目に触れた。
『いたぞ!!』
『はぁ……はぁ……極端に距離が縮まりましたね……いよいよです! 油断せずに行きましょう!』
 皐月が曲がった角を曲がる二人。壁に並んだ備品棚を乱暴に倒しながら進む皐月。時間稼ぎにもならない障害物。
『皐月はもう焦ってるな』
『どうなんでしょう……』
 まだ見えない角のすぐ先でドアの閉まる音がする。
『追い詰めたな』
『やはり……おかしいですね』
『何がだ?』
『本当に逃げたいなら、立て篭もりますか?』
『まあ……不自然さはあるが、皐月に能力を操る時間を与えるのはまずい』
『そうですね』
 まだ逃げられる船内。距離的に絞られる隠れた部屋。風間と田村が同意できる部屋の前に立ち、風間は威嚇と警戒の意味を込めて、ドアノブに触れる前に鍵を 銃で撃ち、ドアを蹴る。そこはネームプレートもない使われていない資材置場。隠れるところも見当たらない部屋。皐月が部屋の奥の角で震える。
『こ、こないで……』
『皐月さん……はぁ……はぁ……平和に話しましょう。あなたから能力を奪ったら、私はヘリですぐ飛び立ちます』
『嘘よ! さっきは皆殺しって言ったじゃない!』
『そのつもりでした……けど私の目的は数年後に発症する感染したウイルスを防ぐ事が出来ないかが目的です』
 風間が初めて聞いた田村の事情。道徳心や倫理観などが欠ける戦場での行為。強い力を持った者が弱い者に対して行う卑劣。簡単に想像できる内容に、相槌をする風間。
『そうか……傭兵にはよくある話だな』
『はい、もし治れば、なんの償いにもなりませんが、死期の近い者に譲ります』
 誠意ある言葉に聞こえる取引。誠実さが嘘であっても、余計な暴力を感じさせない口調。
『でも……』
『私は今からゆっくり近付きます……どうか動かないで欲しいです』
『もう、ないの』
 この殺風景な部屋にも聞こえていない足音があった。それは香山が倒れている病室の前に近付いてくる足音。目的があって近づく音なのか、それは風間や田村が通った道とは違う方向からである。病室の前まで近づくと、その様子に声を掛ける船員。
『香山さん!? 大丈夫ですか? 酷い怪我だ』
 気絶した香山を何度も揺さぶる船員。ただ事では有り得ないような怪我。直前に聴こえた銃声。
 ほとんどの船員は、関わりを避けるためにも、主要な部屋から出ることはなく、争いが収まるまでは頑丈な部屋の中で立てこもり、良識ある、会話の出来る者 からの状況連絡を待っている状態であった。その逃げる最中に目に触れた事情と「頼まれた事情」。貴重な医師。放置することは出来なかった。
『ん……』
『あっ良かった! さっき皐月さんが、別の道から、病室付近にいるあなたを助けろと……』
『な、なんとぇいっとぇとぁ』
 船員は予想外な香山の声が微妙に聞き取れないため、簡単に話しを繋ぐ。
『さ、皐月さんが、それを伝えると、突然目の前で倒れて驚きました……あっ、病室が大変な事になってますね……今直して寝かせて、すぐ応援呼びますね』
『あびゅないきゃらしゅぎゅにぎぇろ』
 何か必死に訴えている様子はわかるが、理解に及ばない船員。何か目で見て香山が伝えたい事を考える。連想することは、香山が医師であり、優先することを考えることだった。そのように考えた船員は、自然と患者である遼を見る。
『彼の点滴やが倒れてますね』
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ