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セレンディピティ

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 言い訳を聞きたい皐月。しかし、すぐに聞きたくなくなる殺意。
『あぁ……私は能力を手に入れました』
『え!?……そんな』
 皐月の指は仮眠室のベルを鳴らしていた。自分でいつの間にか押していることにビクリとして、そのまま走り出す。
『待ちなさい!!』
 狭い仮眠室では、必要以上に感じるベルの大きさに、風間は上半身を力強く起き上がらす。そして状況を理解したかった。
『なんだ!!!?』
 仮眠室に近づく足音。それは冷静な足音には感じない。廊下に急いで出る風間。すぐに足音の荒らさを表現した表情で走って来る皐月がいる。
『止まれ!』
 風間は拳銃に触れ、皐月を無理やり止める。風間は尋ねる隙もなく、静止される言葉の返答は、わかりやすい答えだった。
『田村が! 能力を手に入れた!』
『なに!?』
 風間は近視で見る皐月の存在から、遠視で見るとすぐに田村の笑みが映った。歩き始める田村に風間は拳銃を構え、叫ぶ。
『止まれぇ! 田村ー!!』
 体中の血しぶき。手首より血を流した状態で、気持ちの良さそうな笑みを浮かべる田村。警戒する事より、理由が気になる風間。
『どういうことだ!! 説明しろ!!』
『ハハハハハハハ!! 私は手に入れたんですよ! 能力を!』
『お前……手錠に繋がれた傭兵を助けたときに言っていた内容を……やはりお前か!!』
 風間の言葉に即答しない田村は、自分の服の方から下を破り、手首の止血をするために縛る。
『知ってる人間が多いのは後々都合悪いんですよ……まぁ、能力の奪い方は知っての通りです!! 私は自分に死期をつくった。間違っていないはず!!』
 拳銃を強く握り、標準を外さない風間。撃つべきか、油断を待つべきか。
『そうです! 私を撃って下さい!! きっと能力が開花します! その時があなたの最後です!! ハハハハハハハーー!!』
『こ……この……皐月ー!! 後ろに逃げろー!』
 風間の怒鳴るように呼ぶ名前に皐月は一瞬戸惑うが、すぐに田村に背を向け走り出す。
『くぅ!』
 風間は焦る。森林で戦っていた時の能力者の動きが蘇る。元戦友だった、死刑囚の動き。撃った瞬間、自分に勝機はあるのかと。
『田村! お前は最初からこれが目的か!?』
『いえ……あの少年の後ろから投げた私のナイフを避けられてからです。この能力は何かある! 別の世界が見えると!』
『ならこれからどうする!!』
『それはまだわかりません……とりあえずこの船の人達には……全員死んでいただきます。私の存在を消したいので』
 近い目標を消去法のように唱える田村の思惑。付け入る隙をうかがう風間。本当に能力を保有出来たのか。これほど人間らしいものか。そこに抽象的な道筋の矛盾が生まれる。
『おい! 矛盾してるぞ!』
『何がです』
『お前がそれを成功出来るなら! 全員の死期が見えている!!』
『は? それは……』
 田村に廻る必然性。田村が船の者全員を殺せるなら、田村より先に死期があるという筋道。田村より先に死期が迫っているなら、田村以外で近寄った者全てに 能力が移動する可能性があったという気づき。拭えない考えに次の行動に出られない田村。そして風間の知りたいことは、明らかな殺意の順番。
『誰から殺す気だった』
『まず身近で簡単に殺せる……非戦闘な香山。そして……』
『皐月ー! 香山はどこだー!』
 背中越しで皐月に尋ねる風間。下を向きながら答える皐月。
『多分……死んだ』
『なんだと!?』
『そして! 皐月です!!』
 言葉を放ちながら迷うことなく突然ナイフを皐月に投げる田村。風間にすれ違うナイフ。うつむいた皐月は、自分の顔を隠すのに充分な長い髪が視界も塞ぎ、 下を向きながらも、揺れるようにナイフを避ける。横目でそれを確認した風間は、鳥肌が立つ思いで振り返り、田村に背を向ける。
『この感じです……この自信を持って投げたナイフの無力感……この魅力を私は能力に感じたんです!! わ、わあああああああーー!!』
 ナイフを投げた時と変わらない皐月に向かう指は震え、手首の血は希望と共に下へ零れていく。絶望を言葉に表現出来ない田村は、風間に背中を向けて走り出す。
『皐月……香山を……父親を殺したのか!?』
『そんなつもりはないわ……だって……肩に触れられた瞬間に、私の体が勝手に動いたんだもん……フフ』
『ん!? 皐月! お前はどうしたいんだ!』
 何かに魅せられたように、どのような意味の不敵な笑みか。先程まで逃げていた皐月の姿が、そのまま田村へと移り変わった嘆かわしさへの皮肉な笑みか。
『フフ……あいつが……田村が言った通りでしょ? 追われるのはごめんだわ……私は今……特別な存在なのよ? 研究? 冗談じゃないわ!! 私は特別! 普通じゃないのよー!! アハハハハハハハハ……だから……死んで』
『くそ!』
 特別な可能性に魅せられた非凡な存在となった自信の現れか。それは皐月の本来有りたかった姿か。わかりやすい目的に下手な攻撃も利口に感じない風間は、後ろへ走り出す
『田村ー!! どこだー!!』
 見回す風間。返答しない旧友。立場は同じだと、再び手を組みたい戦場の友。ちょうど病室を通り過ぎるとき、何か鈍いものを叩く音が耳に入る。
『はぁ……はぁ……おいっ!』
『田村……』
 それは、遼の体を何度も叩く田村の姿。身動きのとれない物体のように、痛みに反応できない鈍い存在のように、痛みにも声にも反応しない遼。
『おい! 目を覚ませ! 能力の事理解してんだろ!!!? うわああああ!!』
 遼の周辺にある医療器具を、乱暴に倒す田村。絶望。思わぬ失態。自分への恥。吐き出したストレスは取り戻す自分自身。
『おい……田村』
『はぁ……はぁ……はぁ……風間さんは……はぁ……勝てる自信ありますか?』
 背中越しに問いかける声に、簡単な浅知恵を返したくない風間。唯一の協力者のまともな言葉を期待する短い時間。呼吸を整える時間を与えたい冷静。
『このままじゃ……はぁ……犬死にです……そして……私は……勝算ありです』
『言ってみろ』
 期待する答え。計算高い田村の生死に関わる結論。
『今……私達は死の運命が待ってます……はぁ……つまり私達を即死させないと、能力が私達に移るんです。そして、確実に死に向かってるのは私です! 風間さんは死が不安定です……私は確実です』
 手首から流れる血。理にかなっている死期への道筋。ひとつの光明を想像する風間には、その未来も想像する暗雲。
『その後は?』
『え?』
『俺を殺すのか?』
『はぁ……はぁ……約束します……風間さん……この窮地を抜けれるのなら、もう船の人間……あなたを含めて殺しません! きっと能力が入っても、私はあな たに勝てる体力はないでしょう。ヘリを戴ければすぐに出ていきます。狙われても構いません……はぁ……殺したところで、どうせ調べれば、死体の数で私の事 はバレます』
『わかった……だが、作戦を考える暇はないぞ』
『そうね……』
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ