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セレンディピティ

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『お前らが利用する船に医療設備があることを願え。それに時間が経つと娘に怪しまれる。もう行くぞ……約束は果たす。そして、もう会わない事を願う』
『あぁ、ベテラン医師が待機してる。急いでくれ。くれぐれもそいつが死ぬ前によろしくな』
     ◆◆◆
『まぁ、こんな訳だから、用心に越したことはねえぞ』
 風間は香山に出来事を伝えた。香山も本来は知らなかった清正の存在。いつのまにか知らされた奇怪な能力を追って、情報源より清正を狙っていた風間。
 相手にはしたくなかった清正だが、ハルへの危険性を考えて、各地で増えつつある戦争の匂いを嗅いで増えていく、傭兵である風間たちにより、狙われて生きることを避けるためにも遼を利用する清正。
 香山は眠っている遼を眺めながら、その見た目からは想像もできない能力に、そして確認するスベもないことに納得の相槌をうった。
『そうか、わかった……人間を越えた身体能力がある。見た目とは違って狂暴になる。そして、元々興味があったとこは、死ぬ人間に能力が移るっていうところだったな……こんなとこか?』
『まぁ……多分な。そして身体能力以前に、奴らは異常に勘がいい』
『そうか……聞いておいて良かった。隔離を考えないとな』
『構わないけどょ、治療はしてくれないと困るぜ』
『あぁ、今はまだ容態が安定してないが、すぐ連れていってくれ』
 これ以上関わりを持ちたくないとも感じた香山。近づくことも避けたい心境。容態が安定するまで安全に監視していきたくも感じた香山は壁に備えてある呼び出しボタンを押し、船員を呼ぶ。
 心電図は安定している。それは静かな夢を見ているかのように。その夢の国が、今の遼にとって一番平和なひと時なのかもしれない。

 香山が呼んだことにより船員が二人現れた。船員は基本的には、非戦闘員であるゆえ、簡単な見張りや連絡以上のことで呼ばれることはなかった。
 ここで船が待機している事情は勿論知っており、国同士がつねに緊迫な状況下にある近年では、船は需要があり、一時的に傭兵や各種依頼により、船の空間を貸出している。
 簡単な依頼で船員が了承すれば、了承した限り責任は船員の範囲で、どのような依頼でも基本は受け付けている。
『二人で見張ってて貰いたい。変化あったらすぐ伝えてくれ』
『了解致しました』
『ふあぁ、じゃあ俺達は少し休ませて貰うぜ』
 風間は休めるタイミングだとわかると、わかりやすいあくびを香山に見せ、それを察した香山もわざとらしい愛想笑いで仮眠室へ案内をしようとする。先に処置室を出た風間の後ろから、田村は香山に一言告げて、風間とは逆の廊下を歩いている。
『何かあったら医務室からこの部屋のベルを鳴らすからな。それと短銃持っているなら、機関銃は起きている俺に渡しておいてくれ。傭兵に寝られちゃ身を守れないや』
『あぁ、ところで田村はどこ行った?』
『船内うろついとるよ。疲れてないとよ! 若いな!』
『そうか……傭兵らしくなく態度が控えめな賢い男だ。頼りになるが油断も出来ん。助けたはずの傭兵が消えた理由を疑いたくなるくらいだ』
『あははは! いきなりナイフ投げられたんじゃ堪らないなあ! あ……あと、清正の連絡先、万一の為だが、教えてくれないか?』
『ああ……いいぜ。だが連絡するのは俺が去った後か、余程の緊急事態だけだ』
 香山が持ち合わせていた手帳とペンに、清正への連絡方法を記入する風間。すでに所在地も知られている清正の存在。その連絡先に香山が目を触れさせると、簡単に出入りが出来るような場所でもないことがわかった。
『勿論簡単に連絡するつもりはないよ……手に負えない時は、お互いの為だ』
 機関銃を預かり、仮眠室から出る香山。しばしの休息のため、皐月のいる医務室へ向かう。
 遼の眠る病室では、船員二人が、遼を見張りながら雑談している。
『こいつ化け物だってょ』
『このガキが? 一方的にやられたみたいだぞ?』
『まぁ、化け物といっても、どんな事あったか知らないけど、うちの子供くらいかな? 可愛そうになぁ』
 遼に触れようとする船員。普通の少年。武力による過度ないじめの被害者にも見えなくない情か。
 離れてみれば、すでに手が触れているかどうかの、まだ皮膚の温もりを感じる刹那に耳に突く声。
『彼に触れないで下さいね』
 声に反応して振り向くと、開けっ放しだった病室の入口に腰を当てた田村が立っていた。
『あっ! はい!』
 腕を組んだ状態で部屋の入口に立っていた田村は、腕を組んだままの態勢で二人に近付く。
『彼と同じ能力の人間に、私達プロの傭兵は10人前後死傷者が出たんです』
『はい! 気をつけます! ち……ちなみに彼にはどんな力が……』
『聞きたいですか?』
『あっ! はい! 宜しければ!』
 戦場での話を肴にして、普段は退屈な船旅を続ける船員には、噂のように耳にしている得体の知れない能力の謎が聞けるのではないかと興味津々な眼差し。
 軽い笑みを浮かべながら船員に近づく田村は、一見そのような戯れに付き合ってくれそうな予感も期待していた。
『それはですね……』
 交差した腕の隠れた両手は、脇に隠した殺意。
『カハッ』『えっ…』
 両手に持ったナイフは、組んでいた両手から花のように広がり、刃先には赤い塗られたようなライン。それは船員二人の首を鋭く裂いた痕跡。
『素晴らしい力です』
 船員二人は動脈を切られ、圧力ある血しぶきをお互いに撒き散らし、理解する間もなく果てる。
『私は幸運です! あなたに逢えたことが! そして死期が近い人間には力が移ることを! 私は傭兵生活で……ウイルスに感染しました。そのうち死にます。 あなたの能力で、もしかすると治る道があるかもしれません! 先程投げたナイフでは、まず起きないと思い投げました。直接危害がないと反応しないようです ね。どうやって察知してるんでしょうか? 見える世界が違うのですか? まぁそれも自分で試してみればよい話ですね。私はまだ数年生きる身……ただあなた のお仲間さんは、自分の手首を撃って能力を復活させたと、役に立たない手錠された二人から聞きました。ついでに始末しておきましたよ。そして、これなら条件は一緒ですね』
 一度振ったナイフを内側に持ち替えて、田村は自分の手首を、ナイフで躊躇なく裂く。
『ははは! ワクワクしますね……どんな気分なんでしょう』
 満悦な自分を想像しながら、田村は膝を付きながら、じっくり自分の変化を待つ。時間なのか、感じるものなのか、何かを待つ。
『私はもう変わったのでしょうか?』
 変化の瞬間が実感出来ない田村は、立ち上がり、格闘技のシャドーを始める。手首からは願いを込めた結果の代償が流れ、キレのある動きに飛び散る願望。一滴、一滴。飛び散る度によぎる不安。
――わからない……いつもと変わった気がしない!
 壁を殴る田村。それも想像を越える結果でもない。
――能力を引き出す鍵でもあるのか?
 田村は何も変わらない身体に自問自答をする。そして、普段なら気づいていた。周りの気配に気遅れすることなど。
『何が起きてるの!?』
 田村の後ろから響く高い声。皐月の目に映る惨劇と理解が届かない田村の血の舞。
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ