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セレンディピティ

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『大丈夫だ。俺がちゃんと連れて来る』
 ハルはうなずき、先にヘリコプターへ上昇する。そしてヘリコプターから辺りを見回す。
『こんなにあの館が近いところだったなんて……パパ!! 私、彼に助けられたわ! あの大木にいる!!』
 気づかなかった深い森林の大木の裏側。上空からはすぐに三階建ての本屋が見えた。大声で叫びながら、大木の方向に指差すハル。うなずく「清正キヨマサ」。
 すぐに遼の姿が目に映った清正は、遼の目の前に立つ。
『君は生きたいか?』
 何も聞こえないほど、深い眠りか、永遠の眠りについているのか、反応をしない遼。
『忠告したはずだ。人になるべく近付くなと……俺達の力は根絶やしされた方がいい』
 本屋での初対面。忠告は優しさだったのか、予期していた事態なのか、拳銃の引き金を引く清正。それは2回。銃声はハルまで聞こえている。
『え!! パパー!!』
 清正の安否や状況が気になるハル。今一度ヘリコプターから降りようとロープを握り締めたとき、ほどなく、清正は遼を連れて現れて、遼を担架に乗せた。清正は一緒に担架に乗り上昇する。
 見るだけなら、すでに諦めたくなる状態の遼。銃声の答えを知るためにも、ハルはすぐに遼の脈をとる。
『生きてる……』
『兵隊がまだうろついている! なんとか威嚇で終わった……親父の能力は気絶していても強運がついてくるのか?』
 銃声の納得。最悪の結果が外れたことへの安堵感。父親へ向き合わせた笑顔。
『人前じゃあ、あのお方っていうくせに!』
 その笑顔に口角を上げてにやける清正。すでにヘリコプターは方角を定めて目的地に向かう。清正が応急処置を行いながら、今までの経緯を伝えるハル。おどおどした遼の性格から、能力に目覚めて、ひと時支配されたこと。無意識の狂気に助けられたこと。手首から流れる血の理由。
『助かりそう?』
『よく生きてるもんだ……しかし自分でフェムを理解するなんて……』
『彼のセンス? おじいちゃんの能力だから?』
『お前を助けるのに必死だったんだろ。惚れられたか?』
 殴りかかるハルによける清正。これ以上ハルの怪我をした腕に負担をかけたくもない清正は、両手を上げて降参のポーズをとり、柔らかく笑う。
『殴りかかるのわかってるくせに言わないの!』
『ははっ! お前のは緊張じゃなく殺気だ! とにかく、ハル、到着まで寝てるんだ。その腕もすぐに手当する』
『うん』
 言われた通りに横になるハル。清正はハルの腕の止血を丁寧に行い、その最中、ハルが眠りについた事を確認する。
 清正は操縦席に向かう。
『どのくらいで到着する?』
『あと15分くらいです』
『そうか』
 拳を握る清正。何の覚悟もない操縦士に対して重い一発で殴り、気絶させる。清正は操縦席に座り、行き先を変更する。
 山をいくつか越えると海が見えてくる。清正の操縦するヘリコプターは一隻の船に向かう。1機分のヘリポート。清正はヘリポートに立っている人間の指示を 受けながら、ゆっくり降下する。ヘリポートに降下が完了すると、清正はエンジンを切らず、用意されている担架に遼を乗せた。
『こいつが必要ならすぐに手当しろ!! もう危ない!!』
『了解しました!! すぐ処置します!!』
 清正はすぐにヘリコプターへ乗り込み、上昇を始める。それはまだ眠っていると思えるハルからの横槍を防ぐためか。ほんの数秒の違いは清正の行動が早かった。
『ん……』
 上昇の音に目を覚ますハル。
『ここは……遼は? パパ!!!?』
『操縦席だ!』
 10人以上は収容できる大型ヘリコプター。ハルは遼の姿がないことに気付き、操縦席に向かう。
『遼はどこなの!? ここは……海!?』
 見回すハル。それは明らかに行き先が違う場所。海に出る予定のなかった目的地。寝ている間に父親が何をしていたのか。そして遼のいない理由。
『遼!!』
 船を見付けるハル。そこには担架で運ばれる遼が見える。
『パパ! どういうこと! なんで遼が!? 操縦士は、どうして倒れてるの!?』
『操縦士は気絶させただけだ! 知らない方がいい……そして彼を渡さないと収拾がつかない!』
『遼を……売った訳ね!』
『彼は今日! 目立ちすぎた!! 俺達まで脅威にさらされる!!』
 声を荒げる清正。目立ちすぎたことへの弁解ができないハル。家族の危険をハルに予感させる清正。説得したい。きっとわかってくれる事を願いながらも、続けて言葉を続ける。
『自分の蒔いた種だ……これ以上お前を危険にさらせない……わかってくれ……』
『でも……』
『どちらにせよ生死の境だ。今は回復に向けて最善の処置がされてる……連れてきた事が彼にとって幸運かもしれん』
 ハルは清正を責める事が出来ない。納得してしまいそうな言い訳。遼の安否が気になりながらも、隠しきれない不安がハルを襲う。それでも、どうしようもない状態に無理やりその場は自分の心を撫でた。
 落ち着かそうと窓の外をあらためて眺めれば、夜が明けていた事に気付くハル。沈黙の中、老人の待つ場所へ向かう。
 清正が遼を引き渡した船。それは医療設備が整った船であり、緊急な治療が必要な者のために、常に待機状態だった。医療処置室のドアが外から開く。開いたドアの先には、長い髪と狭い肩幅が真っ直ぐに患者へ向き合うひとりの女性の背中。入室の気配に何も動じることのない慣れた手つきで処置される遼。
『俺が処置を代わろう……危なかった……よく持ちこたえたもんだ』
 女の横に並び、言葉の返事を待つ男。遼の救急処置を丁寧に行い、聞き慣れた心電図の音に息をつき、手当をする手を止め、そのままマスクを取る女。
『彼の能力のおかげかしら』
『兵士の為の緊急設備が役に立ったな』
『別の船は帰国したの?』
『あぁ。自国の者だけがここに残る。間もなく戻ってくるだろう。帰国した半数は死体だ。危険な力だ』
 すでに帰国した船を見送っていた男。その凄惨な状況を目の当たりにしていた感想をこぼしながら歪んだ顔を女に向ける。
『でも魅力的! 普通じゃないって憧れるわぁ』
『その結果がこれだ! 馬鹿な事言うな!』
『はいはいお父様ぁ~』
 用意していた飲み物のカップに口を当てて、父親からの叱咤をかわす娘。父親が救急処置をしながら雑談する二人。一息ついた娘は再び手を洗い、父親の処置を手伝い始める。笑顔と渋い顔で雑談をしている二人であるが、的確と感じられる動きと、余裕も感じられる経験値でもある。
『しかし、彼は目覚めるかな……こんなに血を流してしまって』
『そうね、様子みないとね』
 流れる血の量は、過去に意識を取り戻さなかった人間を思い出すほどである。経過時間からの可能性。昏睡状態も視野に入れたさまざまな可能性をよぎらせる最中、耳に触れた近づくヘリコプターの音。
『来たようだな』
 「香山(かやま)」は粗方の処置が終わったことで、娘への目線とうなずきにより、いつもの行動と思えるほど自然に、ヘリポートへ迎えにいく。そしてすでに船 員の誘導により降下していた。その大きなプロペラを二つ回した、優に10人以上は収容できそうな大きさ。何人が降りてくるものかと想像をさせながら、プロペラがゆっくり停止する。それと同時にヘリコプターのドアが開く。
作品名:セレンディピティ 作家名:ェゼ