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赤のミスティンキル

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「壁の紋様――昔の魔法使い達は、“呪紋”という陣形を地面や空中に描くことで魔法の威力を増幅させたっていうけど、あれはまさしく呪紋ね! “ヒュールリットの攻防戦”では、空間を遮断する魔法をここで練り上げ、塔の呪紋で魔法力を強化して放射したんじゃないかしら」
「今でも、そんなからくりが動いてたりしねえよな? おっかねえ……」
「心配なさんな。魔法使いがいない以上、あの塔はただの遺跡……。――?!」

 ウィムリーフは怪訝そうな表情を浮かべた。なにやら海面からうっすらと、霧が立ち上ってきているのを知ったのだ。そうこうしていくうちにこの高みにまで霧がかかるようになり、風景が徐々に見えなくなってくる。
 やがて周囲一面は濃霧に覆われ、二十ラク先すら見通せなくなってしまった。先を行くヒュールリットの姿は視界から完全に消えてしまっている。が、二匹の龍は意に介することなくまっすぐ“壁の塔”を目指して飛び続ける。
「これは自然の霧なのか? アザスタン」
 とミスティンキル。
【そうとも言い切れぬな。微弱だが魔法が介在されているのを感じる】
 アザスタンは言葉を返した。
 それを聞いて、ウィムリーフはヒュールリットの元へと飛んだ。
「この霧……島へ向かうあたし達を邪魔するような意図があるんじゃないですか?」
【こんな現象は初めてだ。奇っ怪な。この時期のスフフォイル海に霧が発生するなど――】
 ヒュールリットの言葉を遮るように、目の前になにかが下から飛び上がってきた。熱を伴ったなにかが。
(炎?!)
 ウィムリーフが構えるやいなや、二つ目が勢いよく飛び上がってくる。球状のそれは、真っ赤な火の玉だった。
 そして――ウィムリーフ達の真下から、翼をはためかせる音が幾重にも重なって聞こえてきた――!!






作品名:赤のミスティンキル 作家名:大気杜弥