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赤のミスティンキル

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 エツェントゥーが返答した。

 朱色のヒュールリット。
 その名前は広く知れ渡っている。龍王の名を知らずとも、この龍の名は聞いたことがある者もいることだろう。かつて魔導師シング・ディールに協力をし、さらには眠れる龍達を覚醒させ、ディールらアズニールの軍勢と共にラミシス王国に乗り込んで“漆黒の導師”スガルトを討ち果たした龍だ。
〔龍が相手でも大丈夫だろう? あんたが何か言えば済むことだ〕
 ミスティンキルはアザスタンに言った。
〔龍は他の者の言うことなど耳も貸さぬ場合が多い。龍王様の命令ならばともかく、たとえばわしがそのヒュールリットとやらに立ち去るように命じても無駄だろう。確かに、わしがいたほうが交渉がはかどることは間違いがないが、確かなことはなにも言えぬ〕
 アザスタンは言葉を返した。
〔どうやらヒュールリットは、人間がおいそれと遺跡に立ち入らぬようにと、雲を住まいにして見張っておるようじゃ。龍を相手にするかもしれぬというのに、それでもミスティンキルよ、お主らは行こうと思うか?〕
〔はい〕
 ミスティンキルは決意した。
〔行きます。ラミシスに〕




(五)

 それからの一週間はそれこそ文字通り、あっという間に通り過ぎていった。

 ウィムリーフは宿の一室でラミシス遺跡に関する文献を読みふけり、かたやミスティンキルとアザスタンはエツェントゥー老から、この長老が知りうるかぎりの知識を聞き出していた。
 天高くそびえる守りの要衝、“壁の塔”ギュルノーヴ・ギゼ。
 城を守護するように建造された四つの魔導塔。
 そして――魔導王国の王にして“漆黒の導師”たるスガルトや彼の弟子達が住み、邪悪な魔導の研究に没頭していた魔の王城、オーヴ・ディンデ。

 特に彼が関心を引かれたのは、王城オーヴ・ディンデである。今より九百年前、魔導師シング・ディールを筆頭にしたアズニールの軍勢が龍達と共に王城を陥落させて以来、誰もそこに足を踏み入れたことがないのだ。時を経て、ラミシスの島を冒険したカストルウェンとレオウドゥールも、その王城に立ち入ることはついに叶わなかったという。強力な結界か何かが行く手を阻んだというのだ。
 しかし、大いなる魔力を秘め、魔導を行使するすべを手に入れたミスティンキル達ならば、その結界を突破して王城に入ることが出来るのではないだろうか。
 いや、出来るに決まっている。なぜなら二人はついこの間、“炎の界《デ・イグ》”で、そして月の界で、想像を絶する冒険のはてに、魔導の解放というとてつもないことを成し遂げたばかりなのだ。あれは、赤と青というまったき色――膨大な魔力を秘めていた自分達だからこそ出来たことなのだ。
 超自然の現象と対峙した彼らだから、人間が作り出した結界ごときが破れないはずもない。二人の力を持ってすれば、結界の先にあるオーヴ・ディンデ城に立ち入るのは容易なことだと考えた。

(面白いな! その遺跡――オーヴ・ディンデの城とやらにはまだまだたくさんの魔導についてのなにかが隠されているに違いない。どうやら行ってみる価値は大いにありそうだ!)
 ラミシスの島に着いたら、真っ先に王城を目指そうとミスティンキルは考えた。そこには果たしてどのようなものが待ちかまえているのだろうか? 魔境とすら言われる島の様相を聞き出すにつれ、ミスティンキルの好奇心はいやがおうにも増していくのだった。
 しかし、ウィムリーフの前であからさまにその気持ちを表すのは控えようと思った。感情の高ぶりは、増長、過信に繋がることを知っているから。それに、自分の得た知識を知ったかぶりに披露するのは面白くない。それよりはここ一番、いざというときに披露して、ウィムリーフの感嘆を受けたいと考えていたのだ。

〔ミスティンキルよ。お前が手にした力というのは、“司の長”たるこのわしを凌ぐほどにまで強大なものじゃ。だからこそ自重するのだ。おのれを見失ってはいかん。これは、忘れるでないぞ〕
 四日目の夕方に、エツェントゥーはそうミスティンキルに釘を刺した。

 そして、旅支度の期限である七日目の朝。
 旅装束に身を包み、荷物を背に抱えたミスティンキルとウィムリーフは、待ち合わせ場所であるデュンサアル山への登山口にて、一週間ぶりに対面した。二人とも、ラミシス遺跡の持つ何か得体の知れない魅力、もしくは魔力に取り憑かれていたために、お互いをかまうことを忘れがちだった。それまでは寝食を共に過ごしてきたというのに、この一週間は部屋も別々にして、自分のしたいことだけに没頭してきたのだ。
 だけれども。
 そんなことは今まで共に旅をしてきた二人にとって、ほんの些細なことでしかない。その程度で関係がぎくしゃくするような間柄ではないのだ。
「さあミスト、いよいよ行くわよ!」
「おう」
 と、お互いに相づちを打ちさえすれば、二人の間の雰囲気は一瞬にして元通りに戻るのだ。そして今までどおりの空気が包む。がっちりと、絆が結びつけられる。

 ややあって、空から巨大な蒼龍がゆっくりと舞い降りてくる。
 二人は大地を蹴り上げるとおのが持つ翼を広げ、龍めがけて跳躍する。そして、アザスタンの背に飛び乗った時――。

 ――ミスティンキルの、そしてウィムリーフの新しい物語が紡がれ始める――。






作品名:赤のミスティンキル 作家名:大気杜弥