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その後の仁義なき校正ちゃん

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(……じゃぁ、どこ?)

 少し焦れったくなった僕は、大人げない口調でせっかちに言った。

「何? 思いついた指摘が外れちゃったのが悔しいの? まったく、キミってホントに子どもみたいなんだから、仕方ないわね。さっきも言ったようにレアなケースでもあるから、すぐに教えてあげるわよ……」

 いや、十二分に前口上が長ったらしかったと思うんだけど。

「ここ! ホルダーネック!!」

 校正ちゃんは、誇らしげに胸を張って、その言葉が印字されている箇所で左足をドスドスと踏みならした。

(……って、どういうデザインのヤツなの?)

「もぉ、すぐにあたしに頼るのは、キミの悪いクセよ。少しは自分の記憶を辿るとか、資料を捲ってヒントを探すとかしなさいよ。ま、コレは誤表記だから、正しい表記を先に示した方がベターなのは確かだけど……」

(正しい表記って?)

「キミ、学生時代は英語の成績だってそれなりに良かった筈でしょ? まだわかんないの? ホルターネックよ!!」

(一緒じゃん)

「どこに目つけてんのよ!?」

(……あ)

 ホルターの<タ>に濁点が付いて<ダ>。ホルターという単語は知らなかったけど、ホルダーネックというのは、言われてみれば確かにおかしい。よく似た言葉でキーホルダーというのが和製英語(あちらではキーリングやキーチェーンと呼ぶ)だというのは聞いたことがあるけど、ソコから考えたとしても、全く意味がわからない(ネックホルダーなら、意味は通るけど、何か “ホラーな感じ” がするヘンな言葉になってしまうもんね)。

「だから、レアケースだって言ったでしょ。どうしてレアか? という説明は後でするとして、簡単に言えば、ホルターという片仮名を見た人がホルダーのことだと勘違いして書き間違えた表記が、そのまま広まっちゃった言葉らしいってこと」

(何じゃ、そりゃ?)

「ホルターっていうのは<牛や馬を首のところで繋いでおく綱のこと>で、女性の衣服のトップスに着いてる肩ひもを、首の後ろで結んだり繋げたりしたデザインのことをホルターネックって呼ぶのよ。原音に近い表記をしたら<ホールター>になるらしいんだけど、最初の誰かがこういう風に書いていれば、たぶん、生まれてなかった言葉なんでしょうね」