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その後の仁義なき校正ちゃん

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<<警戒警報、警戒警報。第3種外来語誤表記、未慣用化。訂正箇所多数>>

 何だそりゃ? カレコレ、校正ちゃんとは1年くらいのつき合いで、今まで一緒に色んな文章の間違いを修正してきた。例えば、同音異義語の誤変換や誤字脱字。校正ちゃんによると、パソコンやスマホなどの携帯端末が普及し尽くした(つまりは入力変換ソフトによる文章作成が当たり前になった)現代において最も多く見かける間違いがコレに類するヤツなんだそうだ。
 しかし、さっきの用語は、僕が初めて耳にする種類のモノだった。開いたレジュメのページをひと通り見回してみた限りでは、ドコがどう間違っているのか全然わからない。頭の中にガンガンと響いてうるさいので、とりあえず警報をミュート、おまけに表示ランプを消灯してもらってから、校正ちゃんに尋ねた。

(ドコが間違ってるの?)

 間抜けだと思っていても、つい口に出してしまう。外来語がどうとか言ってたからカタカナ言葉に関係しているのは何となくわかるような気はするけど……。
 僕が、あからさまに戸惑っていると、校正ちゃんがレジュメの上をトコトコと歩いて行って、ある地点で立ち止まり、仕方ないわねと言わんばかりに、左足をドスドスと踏みしめた(SE使用)。

<……ワンピース、ビキニ、タンキニ等の形状タイプを問わず、ホルダーネックデザインのトップスが人気上位を占めているマーケティング調査の結果を踏まえ……>

 僕は、ここまで読んで、ピンッと閃いた。

(もしかして、タンキニ?)

 たいして長くもない耳を2つ生やした小さな頭を後ろに仰け反らせ、校正ちゃんが派手にずっこける。うーん、僕にしては目のつけどころがよかったような気がするんだけど、どうもソコではないようだ。

「キミさぁ、ひょっとしてウケ狙って言ってんの? つい、ハリセン(張り扇)で思いっきり顔面ドツキたくなっちゃうわよ、全く。と言ったって、あたしは関西人じゃないわよ。わかってると思うけど。それはともかく、割とレアなケースだから説明してあげた方がいいかもしれないわね」

 また、始まった……でもまぁ、抵抗したって無駄だしな……僕は即行で諦めて、いつものように校正ちゃんの口上に耳を傾けることにした。

「タンキニっていうのは、女性用水着の形状タイプの一種で、ビキニの上にタンクトップを重ねて着るような感じのセット商品のこと。タンクトップとビキニの機能を併せ持ったモノ、という意味合いの造語というわけね。キミも、この業界の人間なら知ってて当然の言葉なんじゃないの? せっかく名前の通った会社にいられるんだから、そういう怠惰な姿勢は改めないと、出世に響くわよ!!」

 はいはい、そうですねっ。僕が出世しようとしまいと校正ちゃんには何の関係もないような気がするんだけれども……。僕は口には出さずに毒吐いて、校正ちゃんに続きを促した。

「でね、こういう、まだ世の中全体に定着してない造語や略語、業界用語っていうのは校正の対象にはならないのよ。どうしてかって言うと、その言葉を使用することに対して正しいとか誤ってるって判定すること自体が現時点ではナンセンスだってことなんだよね。<タンキニ>の場合はファッション業界をはじめとした比較的狭い範囲でしか通用してない言葉だから、広く一般的に流通させる文章で使うときには、もちろんそれなりの説明が必要だろうけど、間違った意味で使ったりしなければ、あたしたち的には全く問題にしなくてもいいっていうわけなのよね。あ、今の<あたしたち的>っていうのもTPOの条件さえ合ってれば、似たような理由でスルーしてオッケーだからね」

 校正ちゃんは、いったん言葉を切って、目のところに切られたバッテン印の表示ランプを僕の方に向かって1回ピカッと短く点滅させた。本人いわく、ウィンクのつもりらしい。