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その後の仁義なき校正ちゃん

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「言いたいことは、それだけ?」

 さっきまで目の前に迫っていた校正ちゃんが少し離れて、前方の空間に浮かせた身体をピタッと静止した。僕は、何と言って返せばいいのかわからないまま、校正ちゃんを、じっと見詰めているしかなかった。校正ちゃんも、バッテン印を真っ直ぐに僕の方へ向けていた。2人の間に微妙な沈黙が流れていく。しばらく後、先に口を開いたのは、校正ちゃんの方だった。

「……嬉しい」

 ん!? 何のことだ? あまりにも意外な言葉を耳にして呆気にとられる僕。

「……嬉しいの。スゴく嬉しいのよ……」

 何度も嬉しいを連発しながら声を震わせている校正ちゃんの姿を見ても、何が起こっているのかが全くわからずにいた僕は、次の瞬間、信じられない光景を目にすることになった。
 校正ちゃんの顔の真ん中に切られたバッテン印の表示ランプの角に、何やらキラキラ光った水滴のようなモノが薄っすらと溜まっている。これって、もしかして、泣いてんのか? あの校正ちゃんが、冷血無情な校正ちゃんが、目(バッテン)に涙を浮かべてるって? ウッソォ!?

「……あたしが泣いたら、オカシイ?」

 既にすっかり涙声になった校正ちゃんが言って、その拍子に、バッテン印の端に溜まっていた滴がポタポタと踊り場の床にこぼれ落ちていった。

「……あたしね、スゴく不安だったの。あたしが口を酸っぱくして何度も繰り返し言い聞かせたって、キミはさ、ちっとも校正者としての自覚を持ってくれなかったじゃない? このままじゃ、あたしは一生、キミの頭の中に居続けることになるかもしれない、なんて考えちゃったりしてさ。あたしの方は自分の意思でキミを選んでるから構わないけど、そんなことになれば、キミの方が困るでしょ? ずっとこのままなんてさ。だから、出来るだけ早くキミの頭の中から出て行ったげなきゃなんないのに、キミが、キミが……」

 そうだったのか。校正ちゃんは、ずっと僕の為を思って厳しく指導してくれていたんだな。最後の方は乱れて聴き取れなくなってしまったけど、校正ちゃんの真心みたいなものが伝わってきたような気がする。さっきは僕もつい感情的になって色んな酷いコトを言ってしまったけど、ごめんよ、校正ちゃん。これからは心を入れ替えて、草の根の校正者として一日も弛まず緩まず精進することを……。