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その後の仁義なき校正ちゃん

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「じゃぁ、校正ちゃんが会議の途中でいなくなったのは……」

「その通り。たぶん、榊原が会社に来た辺りでセンサーに反応があったのよ。様子を窺ってたら一緒の部屋にJA21129がいるのがわかって——ちなみにあたしのコードはJA25031で、あっちが少しだけ先輩なんだけどさ——連絡を取り合ったのよね。キミがコピーと製本作業してたから、あのレジュメに訂正箇所があるのは、配られる前から知ってたのよね。あとは、あたしたち3人で打ち合わせして、さっきみたいな段取りになったというわけ。オッケー?」

 ヤボ用って、このことだったのか。道理であのとき、校正ちゃんの態度に余裕があったわけだ。いつもなら、僕の弱気な態度にイラ立って鳴らしまくる警報も光らせまくる赤ランプも、頼んだらすぐに消してくれたし、今までそんなことなんてなかったのに、優しく励ましてくれたりして、オカシイと思ったんだよなぁ。

「どうしたの浮かない顔して。何か不満なことでもあるわけ? キミには、いい経験になったでしょう。次から上手くやれば、それでいいじゃないの」

 胸に、あのモヤモヤとした感じが蘇ってきた。もしかして、校正ちゃんは僕のことが……。少しでもそんな風に考えていた僕がバカだった。結局のところ校正ちゃんは、僕のことなんて単なる校正者の育成対象としてしか考えてないんだ。僕よりも経験豊富な3人で勝手に相談して段取り組んで、僕だけ除け者にして!!

「……すいません。用事を思い出したので、お先に失礼します」

 居たたまれなくなった僕は、あまりにも唐突だとは思ったけど、そう榊原さんに言い残して、休憩室を後にした。背中越しに、今日はありがとゴメンまたね、という声がして、校正ちゃんが追って来た。廊下をズンズンと進んでいって階段室の扉を開き、さらに下のフロアへ降りていく。踊り場まで差し掛かったとき、目の前に校正ちゃんが迫っていた。

「いったい、どうしたっていうの。大人気ないわよ!」

 ああ、どうせ僕は子どもっぽいオトコですよ。大人数の前で発言することだけで精一杯の、修正提案も満足に通すことが出来ない未熟者ですよ!! 自分で自分が酷く情けなくなり、僕は、自分自身に向かって毒吐いていた。
 クソッ!! 校正ちゃんとは1年以上も一緒にいるのに、今までどうして、もっと真剣に校正作業に取り組んで来なかったんだろう。校正者としての自信が今より少しでもあれば、今日だって、もしかしたら校正ちゃんと2人だけで間違いを修正することが出来たかもしれない。
 僕は、ただひたすらに悔しかった。とてつもなく悔しかった。いつの間にか目に涙が浮かび、真ん前にいる校正ちゃんの姿が滲んで見えた。

「悔しい、悔しいんだよ、スゴく……」

 有線通信に切り替えることも忘れて、僕は胸の中で激しく渦巻いているゴタゴタとした感情を、ありのままブチまけていた。

「自信を持って訂正指示を出せるだけの校正能力が僕にあれば、榊原さんや校正くんと4人で協力して、もっとスマートに修正提案を認めさせることが出来たんじゃないのか? 僕の力が足りないから、僕が未熟者だから、みんなに世話を焼かせてしまうことになるんだろ? 校正ちゃんだって、僕みたいな劣等生を指導してるなんて、仲間に対して肩身が狭いんじゃないのか? そう思ってるんだろ? いつもみたいにハッキリ言ってくれよ! そういうコトなんだろ!!」

 今にもこぼれそうになっていた涙の滴が、スッとひと筋、頬っぺたを滑り落ちていった。こんなに感情を露にしたのは何年振りだったろう。僕は、殆ど我を忘れて大声で一気に捲し立てていた。