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目が覚めると小学五年生だった。

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 沖田真理は何も言わなかった。ただ唇を噛んで、俯いて、手を握りこんでいた。
 俺が話し終えたと分かると、消え入りそうな声で、ごめん、と呟いて背中を見せた。
 笑い飛ばしてくれることを期待していたのかというと、そんなことはなくて。
 あらん限りの罵詈雑言で責めて欲しかったのかというと、そうでもなくて。
 自分が楽になれるならそれで良かった。自分が楽になることしか考えていなかった。自分が楽になることしか考えられなかった。
 それが最低のことだと気付いたときには、もう背中も見えなくなっていた。
「おはよ、江口くん」
 尾崎絵美は、俺と朝の挨拶を交わそうとする。昨日までと同じように、俺が特別だと勘違いしていた挨拶を投げかけてくる。
 胸がきゅうと絞まった。
 この子が俺のことを好きだったら、引っ越して行くこの子にとんでもない重荷を背負わせてしまうことになるからと、相手を気遣う振りをして、それを隠れ蓑にしながら、他の誰でもない俺自身が傷付かないように行動していた。
 でも、すべてが杞憂だったと分かった今なら、何も恐れることなく、ただただ好きでいることができるんじゃないか、そんなことも考えた。
 考えたけれど、すぐに頭から追い出した。
 良き隣席の級友であろう。それが俺の出した結論。
 もうじき引っ越して行くことになる尾崎絵美。俺はこの学校で最後に隣の席に座っていた男子。
 尾崎絵美は、それだけの関係でしかない俺のことを思い出したりはしないだろう。
 漠然とした“楽しかったな”の一部になれるのなら、それでいいと思う。
 せめて最後まで良き隣席の級友であろう。
 もう特別ではなくなってしまった俺の「おはよう」は、尾崎絵美にはどう聞こえたのだろうか。
 何の感慨も持たないでいてくれたら、それが一番だと思う。