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ラスボス戦にて

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 大事なお話遮っちゃったとかそんなことは気にした様子もなく、あっさりそう言い放つ魔導師。そこへ盗賊も口を挟む。
「全くだ。実は父親ですなんていう今時ベタでひねりのない展開なぞに付き合ってられるか」
「そうそう。それにあたし、今晩どうしても外せないとっっっっても重要な用事があるのよ」
「重要な用事? 何だよそれは?」
「それは・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・今晩発売開始の『コリト』イベントチケットを手に入れるっていう何よりも重要な用事よ!!」
 ずしゃああああああ!!
「そんなん明日でもいいだろ!! それよりも魔王を倒す方が重要だろーが!?」
「ふっ、分かってないわね勇者。あの手のものは開始と同時に完売するものなのよ。明日なんて間に合うわけがない。それどころか一分一秒の遅れが命運を分ける過酷な戦いなの。それに打ち勝ち、チケットを手に入れるためには、一刻も早く街に戻って開始と同時に購入できる態勢を整えなければいけないのよ!! そのためにはラスボスの長話なんて時間の無駄! 全部省略よ!」
「おい!」
「いや、魔導師の言う通りだ。奴から金もアイテムもせしめられない以上、無駄な長話に付き合う義理はない」
「盗賊まで何言ってるんだよ!?」
「そうですよおふたりとも! それはいくらなんでもひどすぎます! 空気を読んでください!」
 勇者の援護に回ったのは言われた通り大人しくしていた僧侶であった。時々変な発言が飛び出したりはするが、僧侶は説教魔神などといわれるだけあって基本的にとても真面目なのである。まともなツッコミに勇者はちょっぴり感激したのだった。が・・・
「ここは、父と子の宿命の対決! 運命の一騎打ち! という大事な場面なんですから! ああ! なんて燃えるシチュエーション!」
「そっちかよ!?」
 しまったこいつが一番空気読めないんだった。でなければ人の台詞遮ってまで高い所で前口上なんてことするはずがない。ええい、このパーティに真面目にやろうという人間はいないのか!?
 一方、盗賊と魔導師はというと、
「父と子の一騎打ち、か・・・・・確かにそういう状況だな・・・・」
「なるほど・・・それは邪魔しちゃいけないわね・・・」
 どうやら事態の重要性に気付いたらしい。
「すまなかった、勇者。俺たちは状況をよく理解していなかった」
「あたしたちが悪かったわ・・・・ごめん、邪魔するようなことして・・・」
 反省の言葉を述べる二人。僧侶はそんな二人を諭すように、
「分かったなら、勇者殿に言わなければならないことがありますよね?」
 と言った。それを受けて一斉に勇者を見る盗賊と魔導師。そして僧侶。三人は真剣な顔で口をそろえてこう言った。
「頑張れ勇者」
「頑張ってね勇者」
「頑張ってください勇者殿」
「ってお前らオレ一人に押し付ける気か!?」
「いや〜だってあんたの見せ場奪うわけにはいかないし」
「もういい! もう何も言うな!」
 ・・・・なんか虚しくなってきた。まだ魔王と戦ってもいないのに、HPが減っている気がする。いや、どっちかというとMPか。でもこれでようやくラスボス戦を始められる(図らずも一騎打ちになってしまったが)ので、ムリヤリにでも気持ちを切り替えるしかない。
「我が父親だと知ってもなお我に刃を向けるか。勇者よ」
 勇者が剣を構えると、魔王は先程までのやりとりなぞなかったかのように話を進めた。つーか今まで攻撃せず待っていてくれたとはなんて親切な。変身中と決め台詞中は攻撃しないというアレみたいなものか。
「・・・・・ああ、オレは勇者だ。魔王は、倒す。たとえ父親であっても」
 勇者もとりあえず今までのことは忘れることにした。集中だ集中。なんたってラスボス戦なのだ。本来ならもっと緊迫した雰囲気の中で行われるべきものである。
「行くぞ! 魔王!」
 そして勇者と魔王の宿命の対決。運命の一騎打ちが始まったのだった。
それは今までにない壮絶な戦いであった(残りページが少ないので詳細は省略します☆)。魔王の力は、やはり勇者一人では勝てないのではないかというぐらい強大だったのである。しかし勇者もだてに勇者と呼ばれているわけではない。徐々に魔王を追い詰めつつあった。
「ふむ。なかなかやるではないか」
「幾多の戦いをくぐり抜けてきたオレの力をなめるなよ! オレは必ずお前を倒す!」
「やってみるがいい! 勇者よ!」
「オレの本気を見せてやる! 秘奥義! ジャスティスブレェェェェド!!」
 ずばあああああんっ!!
 勇者が放った光の波動が魔王に激突する! 全身全霊を込めた攻撃にさすがの魔王も防ぎきれず、ものの見事に直撃する!
「ぐわぁっ!?」
 苦しむ魔王。ジャスティスブレードの眩い光が玉座の間を真っ白に染め上げる。
 一方、それをのんびり見物していた盗賊たちは、
「・・・そろそろ頃合いか」
「だね」
「ですね」
 と、なにやら行動を開始していた。
「はあ、はあ・・・・・やったか?」
 秘奥義を放ち、疲労困憊する勇者。だがこれで魔王は倒れたはずだ。あれをくらって倒れぬ者は今までいなかったのだから―――
しかし、その予想は一瞬の後に覆された。
「フフフ・・・さすがに今のは堪えた。が、我を倒すまでは行かなかったようだな」
 光の中から、魔王がゆっくりと姿を現した。
「そ、そんな・・・・」
 勇者最終秘奥義ジャスティスブレードにも耐えるとは、さすが魔王といったところか。だが、ノーダメージというわけではない。むしろぎりぎりまで追い込んだはずだ。あと一撃、当てることができれば・・・・・!
(勝てる!!)
 しかし、ジャスティスブレードを使ったせいで勇者にも限界が近付いている。その『あと一撃』を使うことができるかどうか・・・・
(いや、できるかできないかじゃない。やるかやらないかだ!)
 ここで負ければ世界が終わる。人々のため、倒れるわけにはいけない!
「最後の勝負だ、魔王!」
「良かろう! 全力で来い! 勇者!」
 しかし、その時であった。
「疾風迅雷(シュツルム・アングリフ)!」
「流星雨(メテオスォーム)!」
「聖光槍(ホーリーランス)!」
 ちゅどーん!! ばーん!! どごーっ!!
「ぐはぁ!」
 盗賊・魔導師・僧侶の容赦ない攻撃が炸裂! それを立て続けにくらい、ついに魔王は倒されたのだった。仲間たちの絶妙なタイミングでの手助けに、勇者は感謝の言葉を述べる・・・・・・・・・・・・・・・・・はずもない。
「いきなり何してんだお前ら!? オレに任せるんじゃなかったのかよ!?」
 本日何度目かわからない勇者のツッコミが入る。しかし、盗賊たちはしれっと、
「頑張れとは言ったが手を出さないとは言ってないぞ」
「いい感じにHPが減ったところで一気に叩けば楽でいいかなーと思って☆」
「卑怯者かお前らは!?」
「正義がなせればそれで良いのです!」
「正義か今のが!?」
「正義です!!」
 重要な場面で邪魔はされるわとんでもない事を言い出すわ。さすがに突っ込み疲れた勇者は完全に脱力した。仕方ない。繰り返しはギャグの基本です。
「フフフフフフ・・・・」
作品名:ラスボス戦にて 作家名:紫苑