ラスボス戦にて
魔王の低い笑い声が響いた。しかし、その声に始めの時ほどの力も不気味さもない。
「我を倒すとは・・・・強くなったな・・・勇者よ・・・・」
「トドメを刺したのは俺たちだがな」
「お前は黙ってろ盗賊」
余計な口を挟む盗賊に一喝。勇者だって怒る時は怒ります。
「親父・・・・オレは親父を尊敬していた。自分の命を引き換えにしてまで世界を救った偉大な人だと。だから昔の親父に戻ってくれよ。勇者だった頃の優しい親父に」
「いいや。我はもう引き返せないところまで来てしまった・・・・いまさら昔のように生きることは出来ない・・・いや、許されないのだよ・・・」
「親父・・・・」
「だからこれでいい・・・これでいいのだ・・・・世界を滅ぼす魔王は、勇者に倒される定めなのだからな・・・・息子よ・・・・お前は私のようになるな・・・・・がくっ」
「親父! おやじぃ――「さあ! 魔王も倒したし、さっさと帰ろうか」
「そうだな。金目のものもなさそうだし、長居は無用だ」
「一刻でも早く人々に伝えなければなりません。魔王が倒れ、世界に平和と光が戻ったことを! 正義の刃が悪を打ち砕いたことを!」
口々に言いつつ、すたすた歩いていく仲間たち。そのあまりにマイペースな発言に勇者はもはや言葉もない。
「ところで魔王を倒したんだ。国王はちゃんと報奨金を払ってくれるんだろうな?」
「それなら心配いりません。陛下は気前の良い方ですから」
「マジで!? よっしゃあっ!! そうと決まれば報奨金はたんまりいただくわよ! これでチケット買うために諦めてたあのフィギュアも買えるわ!」
魔王を倒した喜びに盛り上がる仲間たち。魔王城の玉座の間から意気揚々と立ち去ろうとする彼らに、
「おまえらぁぁぁぁぁ! 少しは場の空気を読めぇぇぇぇぇ!!」
勇者はありったけの思いを込めて叫んだのだった。