ラスボス戦にて
「ついに我が元まで来たか、勇者よ・・・しかし、お前ごときに我は倒せぬ」
玉座に座し、不気味に笑う魔王。やつこそが諸悪の根源なのだ。やつを倒さなければ人類に未来はない。勇者は背負った勇者の剣を抜くと、後ろに控える仲間たちに声をかけた。
「これが最後の戦いだ。覚悟はいいな、みんな!」
「ああ。魔王にこの世界を滅ぼさせはしない」
「全力でいくわ。あたしたち人間の力ってのをあいつに思い知らせてやる!」
気合十分の盗賊と魔導師。世界の命運がこの一戦に掛かっているのだ。仲間の力強い言葉に、勇者は勇気が湧いてくるのを感じた。
「行くぞ! 魔王を倒すんだ!」
「来るがいい、勇者よ! じわじわとなぶり殺しにしてくれる!」
突撃する勇者。迎え撃とうとする魔王。戦いの火蓋が切って落とされた、その時であった。
「そこまでよっ! 邪悪なる闇の魔王!」
玉座の間に高らかと響きわったったのは、なぜか入り口すぐ横のでかいガーゴイル像の上に立った僧侶の声だった。道理で先程の決意表明シーンで発言がなかったわけである。勇者たちがしゃべっている間に、このガーゴイル像をえっちらおっちら登っていたのだ。木登り下手なのに。
「そ、僧侶!? お前何やって――」
「己の邪悪な欲望がため、人々を巻き込みこの世を混乱させるとは、天の神が許してもこのわたしが許さない! 今こそ己が所業の報いを受けるとき! 覚悟しなさい!」
勇者をガン無視し、全員の注目を浴びる中、わざわざポーズまで決めつつ芝居がかった台詞を述べる僧侶。そして、
「とうっ!」
掛け声一発。慣れた様子でガーゴイル像から飛び下り・・・
べちゃあっ!
ものの見事に顔面から着地した。うわ〜痛そう・・・・
「・・・僧侶、大丈夫?」
呆れ顔の魔導師が一応無事を確認する。うつぶせ状態で大の字になっていた僧侶はすぐさまがばっと顔を上げると、
「くっ。この程度のことでわたしの心は折れませんっ! 全ての元凶たる魔王を倒すまで、何度でも立ち上がってみせます!」
拳を握り、決意のこもった瞳で宣言。てゆーか自滅しただけだろ今のは。
「フフフ・・・・許さない、だと? お前ごときが神の代わりに我を裁くというのか。愚かな」
そんな僧侶の様子を見た魔王は、余裕たっぷりに彼女をあざ笑う。しかし、僧侶は人差し指をびしいっ! とつきつけ、
「たとえどんなに強い敵であっても、愛と勇気を胸に諦めず戦えば、正義は必ず勝つ!!」
口調は勇ましいのだが・・・・おまえ回復役だろ。一番攻撃力低いだろ。
「僧侶・・・・・・頼むから後ろで大人しく回復しといてくれ・・・・」
「何故です!? 他者を傷つけ、そのことを悔いようともしない邪悪な輩には、正義の鉄槌を下してやらなくてはいけないのに!!」
「鉄槌下すのはオレがやるから! 頼むから静かにしといてくれ!」
「でも!」
「いいから!」
不満げな僧侶を強引に後方へ押し戻す。余談だが、仲間がつけた彼女の二つ名は説教魔神と英雄譚(ヒロイック・サーガ)オタクである。
さてさて、何とか僧侶を大人しくさせた勇者は改めて魔王と対峙した。
「変な邪魔が入っちまったけど、改めて、行くぞ! みんな!」
「来るか。しかし無駄な事だ。お前たちごときでは、我に触れることすら出来ぬ!」
「それでもオレたちは戦う! 覚悟しやがれ! 魔王!」
突撃する勇者。迎え撃とうとする魔王。改めて戦いの火蓋が切って落とされた、またしてもその時、走る勇者の横を彼よりも速い影が追い抜いていった。盗賊である。
「盗む(ローバーアイテム)!」
げしぃっ!
盗賊の容赦ない一撃が魔王の腹にめりこんだ。突然のことで魔王も反応できなかったらしく、げふぅ!とうめき声をあげて膝をつく。一方、盗賊はというと、
「ちっ。やはり魔王からアイテムを盗むのは無理か・・・」
魔王に結構なダメージを与えたにもかかわらず、ちょっぴり残念そうであった。
「盗賊ぅぅぅぅぅ! お前この緊迫したシーンでなにやってんだ!?」
「何をやっているかだと? 馬鹿を言うな。これが俺の本業だ」
「だからってラスボス戦でやるか普通!?」
「どんな場所であろうと1ガルドでも多く稼ぐのが俺のポリシーだ」
「あのな! せめてドロップアイテムで我慢しとけ!」
「たいていのラスボスは経験値も金もアイテムも落とさん。そんなことも知らんのか、お前は」
「問題はそこじゃなくてだな!」
ああいえばこういう、こういえばああいう状態に頭を抱える勇者。一方、魔王はというと、盗む(ローバーアイテム)ショックから立ち直ったのか、不敵な笑みを浮かべた。
「フフフ・・・・・愚かな。我からアイテムを盗めるはずがなかろう」
「ふん。そんなことくらい予想していたさ。一応試してみただけだ。しかし、触れることすら出来ないなどと言っていた割には防御が甘いな。結局は口先だけか」
「そうだ! 盗む(ローバーアイテム)を当てられたということは、他の攻撃も当てられる可能性があるってことだな!」
おお! 盗賊の金稼ぎ根性のおかげで活路が見えてきたぞ! と、とりあえず前向きに考えることにした勇者。しかし、魔王はそれをあざ笑うかのようにこう言った。
「フッ。我に攻撃を当てられたところで、勇者よ。お前に我は倒せぬ。何故ならお前は我に刃を向ける気すらなくなるからだ。そう、例えば・・・・・・お前の父親が生きていたらどうする?」
「な、なに!? 嘘をつくな! 親父は魔王と相打ちになったはず! 生きているはずが・・・・・・・・は!? ま、まさか!?」
「ようやく気づいたか。そうだ。我こそが先代(さき)の魔王を倒した伝説の勇者。お前の父親だ!」
バリーン! と勇者の背後に雷のエフェクト。
「な、なんだって!? なら、親父が魔王を倒したというのは・・・」
「確かに我は魔王を倒した。それと引き換えに、我も命を落とすはずだった。しかし我は蘇ったのだ。勇者ではなく、魔王としてな」
「そ、そんな・・・! 自分の命と引き換えに世界を救い、光の勇者と讃えられる親父が、なぜ魔王にっ!?」
「お前にはわかるまい・・・・・我が何を思い、なんのために勇者になったのか・・・・・」
どこか哀愁漂う口調で言う魔王。どうやら伝説の勇者が魔王となったのには、過去の悲しい出来事か何かが関わっているようだ。
「親父・・・・確かに、オレに親父の気持ちなんて理解できないかもしれない。でも俺には知る権利があるはずだ! オレは伝説の勇者の息子なんだからな!」
「フッ。そこまで言うなら教えてやろう。我がなぜ魔王となったのか。そう、全ての始まりは我が勇者などと呼ばれるようになった、あの――」
「雷撃(ライトニングボルト)!」
ばどっしゃーん!
突如、魔導師の魔術が炸裂! まさかの一撃に魔王も大いに慌てた。
「ま、待て! まだ話は終わってな――」
「火炎球(ファイアーボール)!」
どばーん!!
吹き上がる派手な火柱。手加減なしの容赦ない一撃である。魔王相手に手加減してもしょうがないけど。
「おいぃぃぃぃぃ! 魔導師お前なにやってんだよぉぉぉぉぉ!」
「いやー、今さら父親設定とかいいよめんどくさい。そんなことよりさっさと倒してとっとと帰ろう」