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冬野すいみ
冬野すいみ
novelistID. 21783
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ふたりぼっち

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少女には秘密が多かった。というか、意地悪をしているのか何を聞いても”とき子”という名前以外は教えてくれないのだ。そりゃ答えられないこともあったかもしれないが、何一つ答えてくれない。

「年、いくつなん?」
「ひみつ」

「どこに住んでんの?このへん?」
「ひみつ」

「髪茶色いなあ、綺麗やなあ。なんで?」
「知らない」

「…教えてくれたっていいやんか」
「いや」

その代わり少女も私のことを聞かなかった。まあ、単に興味がなかったのかもしれない。名前すら聞こうとしなかった。私は最初に名を名乗ったのだけど、少女は一度も私の名を呼ぼうとはしなかった。
少女は、とき子は私のことを最初に言ったように「こけしちゃん」と呼んだ。私が何度否定しても素知らぬ顔して呼び続けた。そして、その呼び名にもそのうち慣れた。
「こけし」とは私の顔やおかっぱ頭が似てると言ってるんだろうなと思った。ちなみに、私はこけしが結構好きだ。

私が唯一知っているとき子のこと。それは黄色いレモン味のグミが大好きだということだけ。最初にもらったあのお菓子だ。私はすっぱくて苦手だけれど、とき子はよくその黄色いお菓子を食べていた。とき子が食べると、それはとても不思議な宝石か何かのように見えた。魔法のお菓子。
まあ、とき子にそのお菓子が好きなのかと聞くと、「ううん」と首を横に振られたけれど。
でも、眩しい黄色の宝石だった。
きらきらしてる。





とき子はちょっと意地悪だった。私を驚かせたり、私のものを隠したり、取ったり、虫をつかませたり、私の嫌がることを進んでした。私はこの子は嫌な子だなあと思った。
けれど、本当に心から嫌がることはしないし、普通に優しい面もあるので、根は悪い子じゃないんだろうと思う。

そう思って、夏休みの間中ずっととき子と一緒に遊んでいた。私はひとりぼっちだった。だから、例えとき子が本当に嫌な子だったとしても、もうそんなことは関係なかった。一緒にいて欲しかったのだ。私は、寂しかった。ひとりぼっちは嫌だった。

そして、とき子も一人だったように思う。最初に見かけたときも一人だったし、その後も誰かと話しているところを見たことがない。この辺に住む地元の子のはずだけれど、親しい友達はいないようだった。とき子もひとりぼっちなら、ふたりになれば、ふたりぼっちで寂しくないかもしれない。

たまに出会う大人たちはとき子を知っていたようで、彼女に話しかけることもあったが、とき子の返事はそっけなかった。ほとんど返事をしないようだった。そんな態度になぜか私が気を使い、笑顔で挨拶をしてその場を去らなければいけなくなったりもした。

祖父母にはとき子のことは詳しく言わなかった。安心させたい気持ちもあり、一緒に遊ぶ友達ができたとは言ったけれど、その名前や細かいことは黙っていた。祖父母に聞けばとき子のことも色々分かるかもしれないけれど、何だか言えなかった。
とき子が言わないことを知る訳にはいかないとも思えたし、ただ単に秘密がほしかっただけにも思える。私と友達だけの秘密。二人だけの秘密があればもう寂しくないような気がした。
作品名:ふたりぼっち 作家名:冬野すいみ