ふたりぼっち
遠い昔、霞のようにぼんやりとした世界。
記憶の世界というのは滲むように曖昧で、どこか寂しくて、そして、淡く光っている。眩しい輝きと、かすかなぬくもりを忘れたくないと、そう思った。
私は子供の頃、夏休みの間は祖父母の家に預けられていた。うちの両親は共働きで非常に忙しく、帰らない日もあった。だから、夏休みの昼間に子供を一人で家に置いておくのが不安だというのが預けた理由、らしい。他にも事情はあったのかもしれない。
けれど、私は寂しかった。遠い遠い、見たこともない場所で、知り合いもおらず、一年に数度しか会わない馴染みの薄い祖父母と一緒に暮らす。祖父母は優しかった。それはとてもありがたかった。だから私もいつも笑っていた。
けれど、寂しかった。
祖父母の家の周りは自然がたくさんあった。眩しい狂おしい夏の太陽、緑の山々、静かな草っぱら、透き通った川、蝉の声、生き物たち。遊び相手もいない私はあまり遠くまで行かないことを条件に、昼間は近辺を散策して遊んでいた。
近所に同じ年頃の小さい子供は住んでおらず、また、たまに見かけることがあっても彼らは見知らぬ私とは遊んでくれなかった。物珍しそうに声をかけられたことはあったが、それは奇妙な異物を見るようなそんな目だった。人懐こい性格でもない私は、それ以上その子たちとも親しくすることができなかった。
だから、私はひとり。
ひとりぼっちで遊んでいた。
そんなとき、私はあの女と出会った。
私は小さな少女で、あの女もまた小さな少女だった。ただちっぽけな生き物、二人。ひとりぼっちの私は、その少女もまたひとりぼっちなんだなと思った。
女の名は、少女の名はとき子。