ふたりぼっち
なぜこの女がここにいるのだろう。
夏の夜。
蒸し暑い、静寂の闇。
アルバイトの帰り道、日が暮れてすっかり暗くなった中を私は一人歩いていた。あの角を曲がれば私の住むアパートだ。アパートの一階、一人で暮らす寂しげな部屋。
ひとりぼっち。
……そうして、今、私はたどり着いた自宅の前で困惑していた。
私の部屋の扉の前で、女が一人座り込んでいたからだ。茶色がかった長い髪、白いワンピース。年は私と同じくらい。そして、少しつった猫のように鋭い瞳。女は何も言わず座ったままこちらを見ていた。じいっと、それこそ猫のように。
すべてを見透かされそうだ。
女がもごもごと口を動かす。紅をひかない淡い色した唇が生き物のようだった。
女は何かを食べていた。白いビニール袋の中に入ったもの。中身はこちらからは見えない。不思議な女だ。きっとこの女が食べるものなのだから、何か見たこともない不思議なものや、得体のしれない恐ろしいものかもしれない、なんてくだらないことを考える。
女が持っているものはすべて宝石のような輝きをしている。
女のお菓子は魔法のお菓子。一口食べると悲しくて嬉しくて幸せになれる、からっぽの味だ。
けれど、私はそのお菓子が食べたいなと思う。それはとてもすっぱくて小さなお菓子。それは、わかりきったこと。女が何を食べているか私にはその色その味まで想像できた。
女の大好きな黄色い宝石。
私はくらくら、する。
幻想が現実になるような、夢うつつ。
目眩。
夏の夜。
蒸し暑い、静寂の闇。
アルバイトの帰り道、日が暮れてすっかり暗くなった中を私は一人歩いていた。あの角を曲がれば私の住むアパートだ。アパートの一階、一人で暮らす寂しげな部屋。
ひとりぼっち。
……そうして、今、私はたどり着いた自宅の前で困惑していた。
私の部屋の扉の前で、女が一人座り込んでいたからだ。茶色がかった長い髪、白いワンピース。年は私と同じくらい。そして、少しつった猫のように鋭い瞳。女は何も言わず座ったままこちらを見ていた。じいっと、それこそ猫のように。
すべてを見透かされそうだ。
女がもごもごと口を動かす。紅をひかない淡い色した唇が生き物のようだった。
女は何かを食べていた。白いビニール袋の中に入ったもの。中身はこちらからは見えない。不思議な女だ。きっとこの女が食べるものなのだから、何か見たこともない不思議なものや、得体のしれない恐ろしいものかもしれない、なんてくだらないことを考える。
女が持っているものはすべて宝石のような輝きをしている。
女のお菓子は魔法のお菓子。一口食べると悲しくて嬉しくて幸せになれる、からっぽの味だ。
けれど、私はそのお菓子が食べたいなと思う。それはとてもすっぱくて小さなお菓子。それは、わかりきったこと。女が何を食べているか私にはその色その味まで想像できた。
女の大好きな黄色い宝石。
私はくらくら、する。
幻想が現実になるような、夢うつつ。
目眩。