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水に解けた思い

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ひんやりと湿った掌から感じる微かな温もりに、頭の中で何かが弾けた。
「あ、此処…」
『教えてあげます【水の館】の不思議。水の中にあるモノを掬ってください。あなたの内にあるモノを見つけて』
 革張りの椅子の横のテーブルの上にフリル状に波を打ったデザインの口をした水槽があった。
中には、無色透明、おそらく水としか見えない液が入っていた。
女性に、小さな器の付いた棒を渡されると、水を掬うように言われた。
何もない水を掬うのは、可笑しな感覚だった。何処をどう掬えば良いのか迷った。
「こんな感じでいいのかな?」
その水をガラスの皿の中に零すと何かが浮かんで見えた。
《ゴメンネ》
「な、何?どんなマジックなの?」
女性は、ガラスの皿の水を水槽に戻した。
『どうぞ』
もう一度、水を掬い、ガラスの皿に零した。
《アイタイ》
「こ、これって?そして此処は……」
『思い出しましたか?』
女性の言葉が頭の中に入ってくると、さらに涙が溢れた。
「こんなことって…そう、そうなのね」
女性は、ガラスの皿の水を水槽に戻すと、また水を掬い、ガラスの皿に零した。
繰り返して、浮かび上がるのは心に閉じ込めてきた思い。
《ムリシナイデ》
《イツカカナウ》
《サミシイ》
「ええ、思い出したわ」
この店の事を思い出すとともに 知っていたはずなのに消えていた記憶が甦る。
作品名:水に解けた思い 作家名:甜茶