小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カムイ

INDEX|99ページ/160ページ|

次のページ前のページ
 

 文左衛門と同年輩とみられる男が、石の袋を背負ってゆるやかな山道を下っていた。
 積み上げていた枕木が崩れていたところで足枷の鉄の玉を引っ掛けてしまい、袋の持ち手は額からずれて、鼻の付け根から目の部分を塞いだ。幸い、両手で持って支えていたので鼻や目を傷めずに済んだが、踏ん張りが利かず前のめりに転んで、背負っていた石が飛び散り、腰には急激な荷重がかかってしまったが為に、立ち上がれずに、荒い呼吸をして呻きあえいでいる。
 
 監督官が、なにやら大声で叫びながら跳んできた。
「なにを休んでおるか! ぼやぼやせず、ほれ、作業を続けろ!」
 鞭を振り回して、その男を打ち付ける。
 荷の下から這い出し、腕を突っ張り足を引き付けて、立ち上がろうとしていた男は、ますます地面にのめり込んでいくように突っ伏して倒れた。

 そばを通りかかったカムイは石を背負ったまま、片手は袋の持ち手を握り、振り上げられた鞭の先を一瞬に片手でつかみ取ると、グイッと引き寄せ、つられて引き寄せられた監督官と向き合い、鞭を放した手で腹に拳を一発、強く当てた。
 監督官は、ウッ、と腰を折る。
「どうだ、まっすぐに立てるか」
「き、貴様ぁ、ウウーッ、た、ただでは、済まぬぞ!」
「ほう、喋ることは出来るな。だが、まっすぐには立てまい。この男はお主以上に、かなりの打撃を受けたのだ。少し休ませてやればどうか。そうすりゃすぐに、復帰できる」
「貴様ぁ、生意気な口をきくでない! ウフーッ、今日は、食事抜きで独房入りだ。よんはち、さんろく番、だな」

 監督官が記録を取ろうと帳面を開いている時に、その男が荷に手をかけて、よろめくようにして立ち上がり、膝を曲げ前かがみとなりながら、腰をさすりさすり近寄って来ると、監督官の腕を軽く手で押さえた。
「だんなぁ、こん男は関係ありまっせんぜ。許してやっておくんなせぃな。すべてあっしの不注意によるものでやんして。少ぅし休んだんで、もう大丈夫でさぁ」
 そして肩を寄せて、耳打ちした。
「ヘヘッ、娑婆に、知ってるいい女がおるんで・・・紹介しゃすぜ」
「いや、ぅおっほん、拙者はそういうことは、受け付けぬでな。フン、ま、よいわ、今回は、大目に見て進ぜよう」
 監督官は辺りに目を配りながら、素知らぬ顔で離れて行った。
作品名:カムイ 作家名:健忘真実