カムイ
空知集治監
馬たちの世話をしなければ、と気がかりになった鈴は、セタエチを江別の実家に迎えに寄り、荷馬車を操って戻る決心をした。気持ちは、深く沈み淀んだままだ。セタエチにはなにも言っていない。
文左衛門には、なんと言えばよいだろうか。自らが警察に行ってカムイの居場所を教えた、なんてことを言えるはずもない。
セタエチは、今まで見たことがないほどに気難しい顔をしている鈴に、声をかけるきっかけをつかめないでいる。話しかけてはいけない気がして、ちらっちらと、横に座っている鈴を時々見上げるだけである。
鈴はずっと、前を見つめたままで時々、「ハイヨー」と手綱を繰っている。
早く、父ちゃんの顔が見たいな、と思っていた。父ちゃんの顔を見たら、母ちゃんの顔が安らいで、またやさしい笑顔になってくれるであろう、と考えたのである。