カムイ
十分な取り調べを受けることなく、カムイは署内の監獄に入れられていた。今のカムイにとっては、どこにいてもよかった。
鈴がなぜ、私の居所を警察に教えたのか・・・そればかりが頭を占有していた。
鈴に、何があったのだろうか・・・。
いや、鈴の心の中に、何が生じたのか・・・。
ふと、加代のことが頭をよぎった。だがまさか、鈴と加代がどこかで出会ったことなどあろうはずはない、もし出会っていたとしても、お互いに分かろうはずないではないか。
たとえ分かったとしても、私にはやましいことなど、何ひとつとてない。もう加代には、会っていないのだから。
カムイには、女の心の綾が分かっていなかった。ましてや、あれほど警察には行く必要がない、と言っていたにもかかわらず、そう言っていた本人が警察に知らせたという、不可解さだけがあった。
結果的に、自分の自由を奪ってしまった鈴が憎い、という気持ちはわいてこない。ただ、信じていた者に裏切られたのだという、哀しみ、が心を占めていた。
捕縛の最中に抵抗し巡査に傷を負わせた、ということで、十分な取り調べもないままに、空知集治監に送られることになった。
「隠し場所を教える気になったら、いつでも罰を解いてやる。監視に、私に用事がある、と言えば良い。強情を張るのもいいが、いつまで持ちこたえられるかな、フッフフフフ」
警視は、監獄から連れ出され、馬車に乗せられる前になにげなく近寄って来ると、そっと耳打ちしてきた。
カムイは、その言葉が聞こえなかったかのように振る舞い、手鎖りをかけられた状態で、じっと前方を見つめていた。
フッと、月のことが頭をよぎった。月を手に入れた時の高揚感を思い出していた。いや、手に入れるまでの経過が、興奮を呼び起こすものであり、手中にしてしまうと途端にその興奮は消え去ったのだな、と思っていた。
それも含めたすべてのものが今、自身を支えていた気力から遠のいていくように感じていた。