カムイ
どじょう髭の巡査長を先頭にして5人の巡査が乗った馬と、引き連れた1頭の空馬が、カムイの住む小屋を訪れた時、カムイは畑を掘り返している最中であった。
まだ高い日差し、木の陰で涼んでいたセタが、彼らに向かって激しく吠えたてたことで、気付いた。
犬には構うことなく、制服姿の彼らは馬に乗ったまま畑に入り込み、カムイを取り囲む。その状況に一瞬ひるんだが、気持ちを静め、落ち着いて言った。
「何をするんだ、畑からすぐに出て行ってくれ!」
「カムイだな。殺人容疑で貴様を連行する。さあ、支度しろ!」
セタがなおも激しく吠え続けた。彼らに向かって牙をむいている。
「セタ! 静かにしていろ!」というカムイの声で少し落ち着きを見せたが、巡査のひとりが馬から降り、カムイに近寄って腕をひねり上げた瞬間、ゥウ―――ッ、ゥウ―――ッ、ワンワンワンワン―――ッ、とその男の腕に跳びかかり牙を立てようとした。
「ゥワァ――ッ」と叫んで男は激しく腕を振って振りほどき、腰に差していた刀を引き抜くと、セタに切りつけた。
セタは跳び避けたが、胴部を切られ、血が滴っている。しっかりと四肢を踏ん張っているところを見ると、傷は浅かったようである。
カムイは少し安堵したものの、頭に血が上った。近くに転がっていた木切れをすばやく手にするとその男に向かっていき、上から思いっきり打ちすえた。
男は両手を頭上で交差させてその打擲を受け止めたが、両手に痣が出来て痺れ、カムイに触れることが出来ないでいる。
馬上から巡査たちが飛び降り、カムイを取り囲んで、刀を抜いた。
馬上にいる巡査長は、「おとなしくするんだ!」と言ってピストルの筒先を向けている。
不穏な空気が充満していた。