小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カムイ

INDEX|82ページ/160ページ|

次のページ前のページ
 

 馬の出産に初めて立ち会ったカムイと文左衛門は、その情景に目を見張るばかりか、大きな感動を得ていた。ひとつひとつの出来事に、おろおろするばかりではあったが。
 命が誕生する時には、男はこれほどに役に立たないものなのか。己の力を誇りにして生きてきたことが、全くちっぽけなことだったのだと思い知った。
 牡馬である月も、落ち着きを無くしていた。
 
 大きな腹をした牝馬は用意した藁の上に横たわり、次第に呼吸を激しく、そして早めていった。大きく息を吸い込んだかと思うと、腹に力を入れる。
 何度かそうした息みを繰り返して、ようやく胎児を包んだ膜、胎胞が出現してきた。何度か力み、立ち上がっては横になり・・・を繰り返すうちに、少しずつ胎胞は押し出されてくる。
 胎児の片脚が胎胞を破ったが、頭はまだ包まれたままだ。

「手を貸してやった方が、良いのではないか。このままでは窒息して、死んでしまうぞ」と囁く文左衛門。
 荒い呼吸を繰り返して苦しそうな姿に、そしてなかなか終わりが見えてこない様子に、居ても立ってもいられないのだ。
「いや、無理に引き出しては母親の体に障る。ここは辛抱だ。静かに見守っているのが、一番なんだ」
 鈴は自信たっぷりに囁き返し、拳を握りしめて真剣な表情で見守っていた。
 セタエチも起きてきて、薄暗い灯の下で4人は黙ってその様子を見守った。外はまだ、闇に包まれたままである。
作品名:カムイ 作家名:健忘真実