カムイ
馬の出産に初めて立ち会ったカムイと文左衛門は、その情景に目を見張るばかりか、大きな感動を得ていた。ひとつひとつの出来事に、おろおろするばかりではあったが。
命が誕生する時には、男はこれほどに役に立たないものなのか。己の力を誇りにして生きてきたことが、全くちっぽけなことだったのだと思い知った。
牡馬である月も、落ち着きを無くしていた。
大きな腹をした牝馬は用意した藁の上に横たわり、次第に呼吸を激しく、そして早めていった。大きく息を吸い込んだかと思うと、腹に力を入れる。
何度かそうした息みを繰り返して、ようやく胎児を包んだ膜、胎胞が出現してきた。何度か力み、立ち上がっては横になり・・・を繰り返すうちに、少しずつ胎胞は押し出されてくる。
胎児の片脚が胎胞を破ったが、頭はまだ包まれたままだ。
「手を貸してやった方が、良いのではないか。このままでは窒息して、死んでしまうぞ」と囁く文左衛門。
荒い呼吸を繰り返して苦しそうな姿に、そしてなかなか終わりが見えてこない様子に、居ても立ってもいられないのだ。
「いや、無理に引き出しては母親の体に障る。ここは辛抱だ。静かに見守っているのが、一番なんだ」
鈴は自信たっぷりに囁き返し、拳を握りしめて真剣な表情で見守っていた。
セタエチも起きてきて、薄暗い灯の下で4人は黙ってその様子を見守った。外はまだ、闇に包まれたままである。