カムイ
女ごころ、男心
月と共に連れ立ってきた馬たちは、次々に仔を生んだ。
鈴は馬の取り扱いには慣れている。牝馬の出産が近づいて来ると、ほとんどの時間をつきっきりで、見守るのに費やした。裕福な暮らしをしてきた若い女性にありがちな、汚い仕事を忌み嫌うということがなく、20歳にもならない鈴ではあるが、出産に立ち会うのは神聖なことなのだと、意に介さない。
鈴が共に暮らし始めてから、カムイの気持ちを奮い立たせる何かが生じていた。
気が強くて、自身の主張をなかなか変えることはなく、今まで接してきたどの女性とも違っていたので、どのように扱えば良いのかが分からない。だが、これぞと思ったことに対するひたむきさ、さばさばとした率直さには魅かれるものを感じていた。
文左衛門はカムイの協力を得て、こぢんまりとしているが、雪に押しつぶされることのないしっかりとした小屋を再建し、今の生活に、やはり生き甲斐を見出している。
遠い昔に置き忘れてきた “家族” の温もりを感じているのだ。たとえ血が繋がっていなくとも、心のつながりがこんなにも心地よいものなのか、と。
畑地を縮小させて囲いを作り、牧とした。厩舎から出ると自ら川へ行き、水を飲むことができるように、出来るだけ自然に近い状態を馬たちに提供した。皆が協力して牧場経営に乗り出し、馬を繁殖させ、売りさばく。
馬は交通手段として、運搬力として、また開墾にも重宝し、体力があり寒さにも強い道産子の需要は、これからいっそう高まっていくだろうと予想したのである。