カムイ
鈴はいつの間にか囲炉裏のところへ来て座り、干し肉を火であぶっては、ふたりに差し出していた。
ふたりはそれを受け取ると歯で噛み裂き、時々、酒の入った茶碗を口に運ぶ。
沈黙が続いた。囲炉裏の火の、パチッという爆(は)ぜる音だけが、その静けさを破っていた。
カムイは、赤く熾っている木を火箸で持ち上げたり、場所を置き換えたりしながら、爆ぜた火の粉と、時々揺らめく炎を見つめたまま言った。皆の視線も、火の粉と炎に当たっていた。
「鈴に砂金を渡さねばな、約束をしたんだったな」
「そんなこと、もう忘れていたよ。父は無事だったし、炭鉱の経営も、何とか危機を乗り越えることができそうだ、ってこっそり聞き出したからね。それよりなによりも、カムイには命を助けられたんだから」
鈴は、カムイのそばににじり寄って、紅く火照っている顔を覗き込んだ。
「警察なんぞに行く必要ないさ。行けばきっと泊め置かれて、手柄を欲しがってる連中に、ひどい目に遭わされるに決まってるんだ」