カムイ
私以外の者は、寒さに慣れていなかったんだろうな。
次々に動けなくなり、とにかく私は、人家を求めてさまよっていた。
何日も何日もさまよっていたと思う。手持ちの食べ物が無くなり、それでも生きなければ、という思いで歩き続けていた。もう、意識は朦朧としていた。
そうして気が付いたら、アイヌの家族に助けられていた、というわけだ。そこは海の方角とは、まったく違っていたんだな。
しばらくそこで生活をしていたんだが、和人の商人から、故郷の人々が余市に入植していることを教えられて、そこへ向かっている途中に、見覚えのある山が目に付いた。
蝦夷富士は、どこにいてもすぐに見分けがつく。その周辺を歩き回って、ついに見つけた。
どうするかなんてことは、まだ考えていない。当面は生活をしていく足しにと思い、必要な分だけを持つことにしたんだ。
ただ、何度か通っているうちに、後をつけられるようになった。
文左、お前さんが一緒にいた仲間、そして女たち。女が体で稼いだ金を巻き上げていただろ。
熾(お)き火を見つめながら話していたカムイは、文左衛門を見た。文左衛門の顔は、酒と火で赤く火照っている。
「そんなことがあったな。遠い昔のことのような気がする」
ちら、と目の端で、柱にもたれて文左衛門を注視している鈴を捉えて、カムイは続けた。