カムイ
長い、長〜い30分ほどが過ぎた頃に、文左衛門は手には何も持たず、走るようにして、ふたりが待つ荷馬車に戻ってきた。
「おい、街に張られている手配書、見たか?」
鈴は、考え過ぎて疲れきったようなうつろな眼差しを向けて、うなずいた。
「おじちゃん、父ちゃんどうしたんだろ。人をころしたって、ほんとのことだろうか」
荷台に寝転がっていたセタエチが上半身を起こして、問いかけた。
「鈴、しっかりしろ。ワシは警察署に寄って、確認して来た。まだカムイが人を殺したとは、断定できないらしい。そいつは瀕死の状態で山から下りてきて、出会った人にカムイの名を言って、そのまま息を引きとったのだと。それで、事情を確かめたいということらしい。
その巡査が、度々カムイの後をつけていたことは、仲間の証言があるんだと。なぜ後をつけていたのか、尋ねても理由は言わなかったそうだが、噂にはなっていたそうだ」
「砂金の隠し場所を突きとめようとした、ってことかい」
「ああ、そうだ」
「それでそいつ、斬りつけられたとでも、ゆうのかい」
「いや、全身、蜂に刺されていたんだと。毒がまわったんだな」
「じゃぁ、カムイは無関係だ」
「ワシも、そう思う」
鈴は目に力を取り戻し、文左衛門の眼をじっと睨みつけて、言った。
「カムイの居場所を、知らせたのか」
「そんなことをするはずはない。とにかく、カムイ本人から事情を確かめないとな。手配されてること自体、知らんだろうし」