小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」

カムイ

INDEX|73ページ/160ページ|

次のページ前のページ
 

10万両


 鈴は、馬車の荷台にセタエチと文左衛門を乗せて、時々札幌まで出かけて行った。道すがらところどころには、雪の間から、ふきのとうが顔を見せ始めている。馬とオオカミの死体は、獣たちや鳥によってつつかれ食されて、骨が残っているぐらいで、その存在も分かりにくくなりつつあった。

 札幌にセタエチを連れて行くのは、生活に必要な物資を調達することと共に、セタエチの教育が目的でもある。アイヌ社会で育ったセタエチが、今後和人として生きていくためには、和人の生活様式を知り、社会を知ることは大事なことである。
 鈴の存在はセタエチにとって、無論カムイにとっても、重きをなしていたのである。
 お金というものの価値と使い方も、機会があるごとに鈴が、まだ幼いセタエチではあるが、教えていった。
 といっても、箱入りであった鈴自身も知らないことが多くあり、女中に任せていたすべてを自分で判断して、自身で賄っていかなければならないのだ。多くの事柄を、社会から学んでいった。
 
 町には文字があふれている。
 鈴は、家を出る時に急いでいたとはいえ、筆と紙を持って来なかったことを後悔したが、カムイが行っていたように、囲炉裏の灰に棒で書いた文字をセタエチに教えた。
 天侯が落ち着いて、札幌まで買い物に来ることが出来るようになると、早速筆と紙を買い求めて、セタエチに与えた。
 セタエチの興味はそれで一挙に飛躍して、看板や張り紙を見ると、知らない漢字は飛ばしてでも、じっくりと文字を追うのが楽しくなっていた。
作品名:カムイ 作家名:健忘真実